短編
□溺愛マキアベリズム
1ページ/1ページ
「におくん。誕生日何が欲しい?」
「んー、物よりも思い出が欲しいのぉ。」
「へー。」
「なんだったら、俺を驚かせるくらいのことをしてみんしゃい。」
そう言ったのは一週間前。
今日はいよいよ誕生日当日で、朝から何が起こるかワクワクしてた。
しかし、普段は誕生日プレゼントを大量に机の上においていく女子達も彼女ができたおかげか半分以下でとどまってたし、未だに誰からもお祝いの言葉を聞いていない。
クラスの奴等が忘れちょるんは仕方ないと思うが、テニス部の誰からも聞いちょらん。
なんでじゃ?
密かに楽しみにしとったんじゃがのぉ………
1限から4限まで、ぼーっと過ごしたが、誰も言ってこんかった。
日付は12月4日で会っちょるよな?
いつの間にか昼休みのチャイムが鳴った。
クラスの全員が、ガタガタと席を立って机をくっつけたりして弁当を食べる準備をしとる。
「祝わないことが、サプライズとか言ってきそうじゃのぉ………。」
本気で凹んで弁当を食べる気にもなれんかった。
このまま午後の授業は屋上でフケるか、と席を立とうとしたら、窓際に居たブンちゃんが俺に声をかけてきよった。
「仁王!ちょっとこっち来いって!」
無視しようかと思ったが、どうせ暇だからと思いそっちに向かった。
***
「お願いします!!」
「まぁ、協力してあげない事もないけど。」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!!」
「その代わり、本当に仁王君の写真撮ってきてくれるんでしょうね?」
「その辺りは幸村君に任せてあるから、詳しくはそっちに聞いてねー!」
「わかったわ……………。」
仁王君のファンクラブである私達が彼女であるアナタの言う事を聞くのは普段ないけど、仁王君の誕生日のためなら………。
でも、何を考えているの?
と彼女が聞く前に目の前から去って言ってしまったので、開いた口はそのまま閉じられた。
そして、彼女が全力ダッシュで向かっているのは、3年の教室。
端から順に、一人ひとりに声をかけていく。そして紙を手渡してペコリと頭を下げて隣の教室に行くというのを繰り返していた。
彼女が回ったのは同学年のみだったが、仁王と同じ部活であるテニス部の面々は、一年や二年の教室にも回っていた。
「やぁ、こんにちは。」
「ゆ、幸村先輩でヤンスか……!?」
「しい太か。部活頑張ってるかい?」
「もちろんでヤンス!」
えらいな。と言って幸村は思い出したかのように手に持っていた紙をしい太に渡した。
「このクラスに人に配ってくれないかい?」
「いいでヤンスけど………」
詳細を説明したら、満足そうにしい太は笑って教室へと戻っていった。
「よし、次は隣のクラスかな?」
***
窓の外を見ると、人間がたくさんいた。
半端な数じゃない。学年の半分以上、もしくはそれ以上がいただろう。
おかしい。今日は昼休みに集会はなかったはず。
そんな事を考えた次の瞬間、その人混みの中から愛しの彼女の声が聞こえた。
「におーーーーくーーん!!!!」
急いで目をこらして姿を探すが、あまりの人の多さに見つからない。
男も女も入り混じってて、分かりにくい。
「なぁ、アレ何なんじゃ?」
「まぁ、見てりゃぁいいんじゃねーの?」
ブン太はニヤニヤとしながらガムを膨らませた。
「せいれーーーーつ!!!」
彼女のなにか機械を通したような声が聞こえたかと思うと、
人はだんだんと、集まって文字を作りはじめている。
め?
違う。 お?
あ、次が「め」じゃった。
で?なんか濁点が見えにくいがそんな感じじゃろ?
と………
…………………う。
何回も見直す。
信じられなくて、何回もグラウンドを見る。
ドクンドクンと自分の心臓の高鳴る音が聞こえる。
久しぶりにこんなにドキドキしてきた。
そこには確かに、人間でつくったおめでとうの文字があった。
「教室のみなさん準備はいいですかー!!」
あ、校長がいつも話しする台に立っちょる………
って、教室!?
後ろを振り返ると、窓に寄りかかっとる俺の一メートル以内にテニス部のレギュラー達がしゃがんでいて、その後ろに中腰くらいに後輩のテニス部の面子、その後ろには自称俺のファンクラブの女達が並んでいて、教室にはこれでもかってくらいに人であふれかえっていた。
「なん………え……?……はっ!?」
よくわからなくて、俺らしくもなく焦って、教室と外を何回も見る。
前に座ってる奴等は真田以外みんなニヤニヤしちょる。気持ち悪か。
しかもなんか絶対後ろに隠しちょる。
そして、またグラウンドから彼女の声が聞こえた。
「せーのー!!」
「「「お誕生日おめでとう!!!!」」」
教室から、外から、大きなクラッカーの音が学校中に響いた。
溺愛マキアベリズム
(おめでとう!おめでとう!)(これ、全員に協力してもらうの大変だったんだからね!)