短編

□甘美な毒に酔いしれて
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放課後の教室。
夜に近い暗さ。太陽なんてもうほとんど見えない。あ、見えなくなっちゃった。

唯一校内で許可をとる必要がなく、一般生徒居残りが可能な場所である図書室で私は下をじーっと見ていた。
下というか、テニスコートというか。


目下で踊るかのようにテニスボールを打ち合っている彼らの姿は、期待の星がもっともっと練習できるようにと取り付けられた明かりによってキラキラと光っていて眩しい。
冬でも夏でも暗くなるまで練習している彼らには本当に感服するばかりだ。


試合をしているのを見ているだけだとものの数分で飽きてしまうが(そこまでミーハーではないので)
見ていて飽きないのは全員がコートで練習できるわけではないのでコートの外で次の試合をするために待機している人物であったり、ドリンクを飲んでいる人を見るのが面白い。

妙なあだ名がたくさんついているが(格好良く異名とでも言ってみようか)
誰がつけたかは知らないけど的確だと思う。ただし、あの二年生の子はただの遅刻魔だと思うけど。

あ、なにか悪いことでもしたのかな?真田君にゲンコツされてる。


ふふっと思わず頬が緩んだけど、すぐに少し恥ずかしくなって辺りに人が居ないかを確かめた。




ふと、机の上を見ると全く進んでいない勉強道具が私に勉強をするように訴えてきた。
そういえばもうすぐテストだっけ?面倒くさい。

またコートに目線を戻すと、赤い髪が目にはいった。隣には褐色の肌をしている彼もいた。




そして探す。


さがして、さがして、探してみたけど、いない。





「あれ?」





部室かな?と思ってそっちに目を向けてみたけど明かりはついていない。

サボりかな?でもそれだったら真田君がもっとイライラしてるだろうし

寝てる?そんなこと幸村君の微笑みで一発で起きる。


なんでか急な不安に襲われた。
もしかしてもう居ないとか?


それともあまりにも周りに女の子が多すぎて先に帰っちゃったとか?




日付を確認するとちゃんと、12月4日になってる。



静かな図書室に扉が開く音が響いたけど、そんなことまったく気にならないほど私は考え込んでいた。
一緒に帰る約束はしてないけど、なんかいつもの事すぎて改めて一緒に帰ろうなんて言ったことなかったし。



帰った?いない?どこに?










「だーれじゃ?」



「うわっ……………!!」








後ろからいきなり目に氷が押し当てられたかと思ったら、誰かの手だった。

誰の手かなんて匂いでわかる。








「なんで部活出てないの?」



「プリッ。誰か聞いてるんじゃから、まずそっちを答えんしゃい。」



「ごめんね?仁王君。」



「ピヨッ」




「で、部活は?」












どうやら、さっき考えていた通り女の子が多すぎるから強制的に休みにされたらしい。
大変だね、と言ったらまた仁王語で誤魔化されてしまった。得意だよね、その訳の分からない言葉。










「じゃぁ帰らん?」



「帰ろっか。」









私は机の上に広げてあっただけの勉強道具を鞄にしまって
コートを着てマフラーを巻いて片手に鞄を持った。

行くか、と言った仁王君は私の半歩先に常に居る。


隣を歩くわけじゃない、手を繋ぐわけじゃない、キスをするわけじゃない。



そんな今の関係が私は気に入っている。






外に出ると、息は白くて露出している部分の足を刺すかのように吹いている。
さむい。さむい。ばっちりはめた手袋を暖かくならないと知りながらも、つい癖でこすり合わせる。

ぼーっとしていたら仁王君はすでに歩き始めていて、慌てて私はその後ろについていった。
身長の違いというか足の長さの違いが大きいと思うけど、きっと仁王君は私に歩くペースをあわせてくれてると思うんだ。


校門の近くにさしかかった辺りで仁王君が今までの会話を断ち切って、こう言った










「今日、何か言うことないんか?」





「あ、そっか。………………     。」









照れくさそうに仁王君はあんがとさん。と言って笑ってくれて、私の頭をくしゃくしゃとなでた。

そんな仁王君の姿に、思わず私も微笑んだ。












甘美
に酔いしれて

(下手な恋愛をしてほつれるよりも)(この関係が一番だと思わない?)


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