■外唄

□9月30日
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 風が冷たくなり始めた9月の終りごろ。体育祭の準備で帰りが遅くなっていた生徒も散々となり、部屋には二見と自分だけとなった。槌谷は妹の買い物についていくこととなり、先に帰ってしまったと二見が言っていた。

「さて、帰りますか。ジュリエットは寒くない?」
「平気。………てか、その呼び方やめろ」
「つれないね〜」

 そんな、定番となった会話をしつつ学校を後にする。寒くないと言ったものの流石に夏服には秋の冷たい風は辛いらしい。無意識に体を震わせてしまう。

「やっぱり、寒い?」
「…………いや…」

 二見の気遣う言葉が耳に届く。口篭りながら否定したものの、体は素直でまだちぢこませたままだ。
 すると自分の左側に立っていた二見が右側に移動し、いきなり手を握ってきた。

「ちょっ……何すんだよ!!」
「失礼〜。お手を拝借☆でいいかな?」
「ばっ…!!そういう意味じゃなくて!!」
「まったく、ジュリエットは我が儘だね」

 回りをみれば、いつの間にか自分の家の近くの公園だった。こんなことは今に始まったことじゃない。二見と帰るといつもあっと言うまで……楽しくて、嬉しい。

(……顔に出てなきゃ良いんだけど……)

 そんなことを思っていると、いきなり体が暖かくなった。体の自由が奪われて踵が軽く上がる。

「えっ…!?」
「ほら、暖かくなったでしょ?」
「な…っなにやってんだよ!!」
「なにって……、抱き締めてるんだけど」
「……!は、離せって!!」
「え〜?公園で抱き合うなんてロマンチックじゃん」
「知るかっ!!」

 必至の抵抗も虚しく、二見はにっこり笑って俺の顔を見下ろしてくる。ほんの一瞬の間。二秒にも満たない感じな本当に短い間。
 ぶつかった視線に急に恥ずかしさを覚え、耐えられなくなり思わず下を向いた。そんな自分をどう思ったのか、さりげなく自分を抱き締めている腕の力も強めてきた。

(ちょっ……あんまり強くすんな…!!どうしろっていうんだよ!!)

 嬉しさ半分戸惑い半分。どうすれば良いか必至で考えてるが頭が思うように回らない。二見の体温は感じていても、自分の足で立っているか分からない。
 そこに、二見が持っていたらしい地面におかれた紙袋が目につく。

「………二見先輩…。お誕生日おめでとう……ございます………?」
「え?」

 紙袋の中には綺麗に包装された箱が一杯入っていた。その箱の大半は女子からのものだろう。予想はつく。が、問題はそこではない。
 目線を上げて彼に問う。

「おまえ……今日誕生日だったのか?!」
「そうだけど…もしかして、知らなかった?」
「知らないもなにも、他人の誕生日には興味ないし…」
「俺たち、付き合ってるのに?」

 その言葉に自分の顔が、体が熱くなるのがわかった。何度聞いてもなれるものじゃない。

「そ………それは…そうだけど…」
「で、今日9月30日が誕生日とわかった俺に何かすることはないんですか?」
「……すること?」

(すること………?誕生日に…?)

 そもそも、誰かの誕生日を祝ったことなんて今までない。幼い頃ならあるかもしれないが、少なくとも記憶がなかった。

(初めて祝うのがこいつか……。ありきたりだけどいいんだよな……?)

 二見を見て、お祝いの言葉を言おうとする。周りに誰もいないからか自分の胸の鼓動が大きく感じる。抱き締められたままだから、二見の音かもしれない。
 呑気にそんなことを思いながら、言葉を出そうと息を吸い口を開け、

「……お…おめで……とう…」

 祝いの言葉は自分の予想以上に小さい大きさとなってしまった。きょとんとする彼。間違ったことを言ったか内心焦る。言ったことがないとはいえ、いくらなんでもその時に言う台詞はわかる。
 だが、次に彼は優しく微笑み嬉しそうに言った。

「ありがとう」

 そして、次には幸せそうに顔を綻ばせて、軽く唇を重ねた。ケーキみたく、甘い口付け。体の芯まで溶けきってしまうように熱く。

 ありがとう

      end……


ハッピーバースデー二見!!
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