ロンリーガール.
□初めまして、
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「オリオン、ナナを知らないかい?」
「いや、知らない。朝食の後見てない、…ん?あれじゃない?」
僕がナナを探し回って、一時間。中庭で暇そうに寛ぐオリオンを見つけて声をかけた。ナナと僕が婚約者だと広まったものの、相変わらず女達は寄ってきた。本当に心の底からウザったいったらない。馬鹿ナナ。お前が居たらこんな奴等を追っ払う口実ができるのに。そんな感情が漏れていたのか化粧品の塗りたくった顔を近付け、トム、と甘ったるい声で気安く僕の嫌う名前を呼ぶ女。こいつら、死ねば良いのに。
『きゃあああああああああっ!』
そんな怒りを沸々煮立たせていたら、オリオンが間抜けな面をして廊下を指差した。
(失礼だぞ!リドル!)
「…リドル、ナナなんか追いかけられてない?」
「…アブラクサス先輩?」
僕はオリオンと顔を見合せると、二人で追いかけた。勿論、適当な理由で女達を追い払ってから。
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『…ご、ごめんなさああああいっ!きゃああああっ!』
「私がどれだけ恥をかいたかっ!」
『だから!ごめんなさいっ!―べぶうっ!!…いっ、た、』
突然目の前に現れた、誰か。私は鼻を押さえて見上げた。
『り、リドルぅううっ!…と、オリオン。』
「なんだ、その温度差。」
私は、そのままリドルに抱きついた。
「なんでアブラクサス先輩に追いかけられてたんだ、ナナ。」
「…(絶対何かしたんだ。)」
『あのねオリオン、リドル…決して悪戯でやった訳じゃないの!でも呪文の練習してたら、突然アブラクサス先輩が入ってきて…魔法をかけちゃって!』
「…やっぱり。でも、部屋にアブラクサス先輩が入って来たのか?」
『ううん、談話室。』
「誰が人の出入りする場所で呪文を放つ奴がいる!」
「こいつ。」
私を指差すオリオン。リドルは自分の胸に居る私を見てため息をつく。
「黙れ、オリオン。なんで君ってトラブルばっかり…。」
「で、ナナ。因になんの呪文かけたの。」
リドルとは反対に楽しそうなオリオン。
『タラントアレグラ…。』
「…ぶはっ、」
「………、」
『しかもアブラクサス先輩の婚約者の前でかけちゃったよぉおおっ』
「通りで鬼の形相な訳だ。」
『慌てて、フィニートって唱えたけど…』
「けど?」
『談話室に居るスリザリンの皆も見ちゃってて。…わっわたし…殺られるっ!うわあああああっ―べぶっ!痛っ!』
「僕に抱きつきながら叫ぶな。」
「Ms.橘。」
『ひっ!…あ、アブラクサス先輩!』
「…僕のフィアンセが迷惑かけたようで。」
「…ぶはっ、…くっ、くくくっ!」
「後ろにいるのは、ブラックか?アバタ―」
『おっ、落ち着いて下さい!先輩!わざとじゃないんです!いや、そりゃあ私も誰かに当たったら面白いかなっ?―とか思って悪戯に扉へ向けてやったら先輩が入って、―いたたたたたっ!』
「アブラクサス先輩、どうぞ好きに。」
「すまないね、Mr.リドル。」
『あんた達!とっくに服従関係なのバレバレなん―、』
「シレンシオ」
呪文で黙らされた私。そして私はアブラクサス先輩に売られた。涙目でリドルを恨めしそうに見たら、当然だ馬鹿って顔で睨まれた。(へんっ!この裏切り者!)オリオンは笑を堪えてて、私を連れて歩き出したアブラクサス先輩に去り際頭を殴られてた。何かみんな暴力的な気がする。
(え、ていうか先輩私をどこに連れて行くきですか!!)
『っ、は!しゃ喋れ―んぐっ!いたっ!』
「黙れ。」
『あ、あ、アブラクサス先輩、神様、仏様、許して下さい!』
そしたらズンズン私を掴まえて歩く先輩がグルリと振り向いて、私を見た。でも先輩は身長が高いから必然的に私を見下ろす形になる、よって迫力満点!ひーんっ!殺され…、
「信じられない、」
『な、何がですか?』
「君が、彼の婚約者?」
『え、あ…、そうですが…。』
けどアブラクサス先輩の顔がまた更に怖くなった。さっきとは違う雰囲気、何か強い怒りが私を包む。怖くなって思わずまた馬鹿な事を言おうとしたら、スッと杖を向けられた。え?あれ?死亡フラグってやつか?
「…我が君の計画をご存じか」
『何の話ですか、』
「…やはり。なんと嘆かわしい、こんな小娘が現れぶち壊しになるとは。」
『え、ちょ、…ナルシスト風口調やめてくれませ―っ、!!』
「黙れと言ったろ、」
『この状況で無理ですよ。』
「…苛々する女だ」
『…リドルの次に苛々する男のクセに。』
けど本当に冗談言ってる場合じゃない。次は杖が首に突き付けられていた。あれ本日二度目の死亡フラグじゃないかな、うん、そうだよね、うん、絶対そうだよね。あは、あはははは。
『アブラクサス先輩』
「何だ、」
『何で、そんな世界を望むんです』
「っは、馬鹿な質問を!…こんな世界つまらないからだよ!だが、あのお方が考える世界は素晴らしい。」
アブラクサス先輩は、体をカタカタ震わせ興奮したように説明しだした。心酔、そんな言葉が私の頭に浮かぶ。そして心酔に伏せて隠された真実、この人はリドルの次に可哀想な人間なのだ。なんて嘆かわしいと彼は私に言ったけど、なんて嘆かわしいのか、彼に言い返したい。
「…っ嗚呼!恐怖に震え恐怖の余り誰もがひれ伏す!そしてその恐怖から人は本性をさらけ出すのだ、醜く穢い本当の部分をだ!…見てみたい、そんな世界を…見たいのだ!」
『……先輩、』
「…命乞いでもするか?」
『いえ、ただ…考えてたんです。』
「…なに?」
アブラクサス先輩は、顔を引き吊らせ更に私を睨み付ける。計画を聞き怯えない私に苛ついたのだろう、ぎゅっと杖を握りしめる手が視界の隅に映った。
『それで貴方の知る誰かの醜さを暴きだせるからですか。』
「―!!?」
どうやら私は、
『…それでどうするんです?』
「…貴様っ!」
『…馬鹿馬鹿しい。』
『そういうの、‘負け犬の遠吠え’って言うんです。』
本日三度目の死亡フラグを立てたようだ。
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だってそんなのただの弱さじゃないの
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