ロンリーガール.

□在るのか無いのか.
1ページ/1ページ





「…何?もう一度と言ってみろ。」



『負け犬の遠吠えと言ったんです。』



絶句、まさか自分にそんな暴言を吐くなど考えていなかったのか、アブラクサス先輩は苛々が更に倍増したのか、歯を食い縛った、でも私は負けない。






『反論できますか?…親に逆らえないのは貴方、穢いなんてよくも言えたものですね。欲しい物を与えられて育てられた人間はこうだから嫌いなんです。自分で何か手に入れた事がないから分からない、だから仕方ない。言い訳にもなりません、分かってるクセに何が穢いですか、親のせいにする貴方が一番穢い!欲しいなら、手を伸ばしたらどうです!言葉にしたらどうですかっ!親に逆らえない、親に従わなければ生きられない!甘えるのもいい加減にしてください!傷付いたのは貴方だけですかっ!?貴方は嘆いている可哀想な自分が一番可愛いんですっ!』



私は肩で息をしていた、生まれて初めてこんなに怒鳴った。アブラクサス先輩は、杖をいつの間にか下に向けて私を凝視していた。何故それを、と弱々しく呟いた。そして気がついた。あれ、何で私は知ってるんだろう。何で私はアブラクサス先輩が自分の家の為に愛してる人を諦めたのを知ってるのだろう。そしてアブラクサス先輩が、また私に杖を向けた。でも私は言葉が出なかったチクチクと痛い、そしたらアブラクサス先輩がまた呟いた。何故だ、と、だから私は知りせんと呟いた。




「…何故、君が泣くんだ…。」



『…死んでしまったんですね、…そして彼女はこの城にいる…。…名前は灰色のレディ…』




アブラクサス先輩は、ため息をつくと杖をしまった。






「…彼女は死んでしまった…、」




『…ヘレナ・レイブンクロー。』




「…初めてだ、」




『…っ…ふ、…酷い…』




「…初めて、人を愛した。…でも、彼女は…」




『…いいえ、彼女は…アブラクサス、せ、んぱ…いを…』




「―っ!!…Ms.橘!」





私の意識は、そこで途切れた。








*




『…あ、れ?』



「…ナナ、僕が見えるか。」




『…り、どる…』



「…医務室だよ、君が突然倒れたのをアブラクサス先輩が運んだんだ。」



『…りどる…、』



体を起こそうとするとリドルが私を支え、私はそのまま支えてくれるリドルの手を握りしめた。リドルは一瞬、目を丸くしたけど俯いた私を暫く見つめると握り返してくれた。





『…アブラクサス先輩、愛してる人を亡くしたんだね。』



「―!!!…何故それを?」



『アブラクサス先輩が私に杖を向けた時、見えたの。…けど、全部分かったのは、感情に任せてアブラクサス先輩を捲し立てた後に。』



「……………、」



『…アブラクサス先輩に酷い事言っちゃった…、許せなくて当然なのに…わ、たし…偉そうに…』



「…ナナ、」



『アブラクサス先輩、苦しかったよ、ね……親のせいで…引き離されて…彼女は長くなかったのに…っ』



「…ナナ、こっちを向くんだ。」




リドルの両手がのびてきて、涙が流れる私の頬を包んだ。リドルの瞳を見つめれば、いつもより穏やかな優しい顔をしたリドルが私を見ていた。だから余計に私は泣き出して、リドルが困ったように眉をハの字にした。



「…ナナ、君後悔してる?」



『…だって!わたしっ、』



「間違えてない。」



『…え?』



「間違えてなんかないさ。」



『リドル…、』



「…間違えてないよ、だってアブラクサス笑っていたから。」



『…え?』




「二度目だってさ、アブラクサス。」




『……なにが?』




「…ここまでハッキリ言われたの、二度目だって。」




『二度目?』



「…ヘレナ・レイブンクローにも似たような事を怒鳴られたんだ。」




『…うそ、』




「…本当だよ。」



『で、でも!』



「ナナ、君はきっと無意識に開心術を使ったんだと思う。…今はまた眠った方がいい、」



『…り、どる』



何だか、瞼が突然重たくなってきた。




「…大丈夫、ここに居るから。」





私はまた、意識を手離した。












*





「…アブラクサス、居るのか」


「…我が君、」



「いい、入れ」



その声に、頭を深く下げ入るアブラクサス。僕はすやすや眠る彼女の寝顔を見てため息をついた。



「すまなかった」


「―なっ!?…我が君っ、何故お謝りになるのですかっ!」


「…ナナが、勝手に君の記憶を見たようでね。」



「いえ、それは…私が我が君の…」



「予想はできる、」



「…私が失礼な態度をとってしまったのです。紳士足るもの、…いえ我が君に使える者としまだまだで…。」



「アブラクサス、」



「はっ、我が君。」



「…ヘレナを忘れるな、」



「…我が君?」



「僕にはまだ分からない、」



「……………、」



「まだ分からない。僕は変わる、君と違う方へ。」



「…私は我が君に…」




「変わるなよ、アブラクサス」





分からない、僕が変われば在るのか。分からない、僕が変わらなければ在るのか。





「…仰せのままに、我が君。」






僕は、頭をまた深々と垂れたアブラクサスを一瞬見て彼女へと視線を戻した。







****
君は僕が変われば居なくなるの?それとも君は僕が変わらなければ居てくれる?




































.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ