俺の、僕の、妹.
□イビツな心.
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コツコツと二人の足音だけが廊下に響き、シリウスは歩きながら彼方此方に目を泳がせていた。
何せ、ハナと二人きりになるのは数年振りだ。何を話すのか、どう接すればいいのか。はたまた、決別した自分が妹と居て良いのかさえ分からなかった。
「…ジェームズの野郎、」
シリウスは苛々を押さえる為にそう吐き出し、ため息をつく。
『…あの、シリウス兄様』
ハナの声にシリウスの肩が派手にびくつき、ギクシャクとした振舞いで数歩後ろに居るハナに振り向いた。
「…な、なんだ」
『兄様は、元気でしたか?』
「…あ?やっ、そのっ…嗚呼、」
シリウスは状況を掴めず、自分の鼻の先を掻く。
『…そうですか。兄様に、もう一つ質問していいですか?』
シリウスは顔をゆっくりと上げたハナを見て、こくりと頷いた。
『…兄様は、私が嫌いですか?』
その瞬間、シリウスは言葉を無くした。目の前で、自分の妹が何とも悲しい質問をしている。たが、シリウスは頭の中にグリフィンドールに選ばれ、実家に帰れば浴びせられた罵声が巡っていた。
自分と居れば、ハナが傷付く。傷付けられる。寄りによって、何よりも味方である筈の家族から。そうさせない為には、言うべき言葉は決まっている。
「…お、俺は…」
ハナの瞳が、不安に揺られながら自分を見ていた。
「…お前が…き、キライだ。」
一層見開かれた瞳、表情が一瞬にして凍る。そして、ハナの唇が歪み綺麗な瞳から涙が流れ出す。
『…っ、ごめんなさい、シリウス兄様っ、…わたしっ、わたしっ、』
シリウスの胸が、ぎゅうぎゅうと締め付けられた。シリウスは唇を噛み、耐える。
「ハナ、寮に行こう。」
その声に、シリウスはスリザリ寮へと向かう道に振り向いた。
「…れ、…レギュラス…。」
「ハナ、聞こえなかった?寮に帰るんだ。」
レギュラスの言葉に、ハナは走りシリウスの横を過ぎて行った。
「―っハナ!」
「あんまりじゃないですか。」
レギュラスの言葉に遮られ、小さな背中にはその声は届かなかった。
「…貴方が、‘純血よ永遠なれ’と掲げる我が家が反吐が出る程嫌いなのは仕方ないとして、」
「……っ、」
「ハナが貴方に何をしたって言うんですか?」
レギュラスの静かな口調の中に、沸々と煮えくり返る怒りが垣間見る。
「…貴方が知っての通り、我が家には愛情なんて存在しない。」
「…………、」
「小さな頃から、純血の高貴なる貴族としての振舞いを叩き込まれてきた。勿論、ハナもです。」
「…っだから、なんだよ。」
シリウスがやっと絞り出した言葉、レギュラスは呆れたように兄を見つめた。
「そんな家で貴方との思い出だけが、ハナにとって何よりも愛に溢れていた時間…、例え僕と笑い過ごしでも、相当する事のない唯一無二の記憶なんです。」
シリウスは、レギュラスから視線を逸らし俯き頭を垂れる。
「残念です。」
その言葉にシリウスは、弾いたように頭を上げ目を開きレギュラスを見る。
「…ハナを大切にする貴方が、僕は…、…いや、何でもないです。失礼します。」
シリウスはただ一人、レギュラスの背中が見えなくなっても廊下に立ち尽くす。
ただ、彼は知らされた事実に呆然とするしかなかったのだ。
to be next.
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