企画部屋

□Contract〜契約〜
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第1話 蒼き森は奏でる

カルディアナ大陸、東部。

首都ロマウンドの東、三つの山岳地帯を超えた所にある村。

村〈キョウト〉は人口250人という、それなりに大きな村である。

四季の巡りがはっきりと分かれ、緑の山、森に囲まれたとても豊かで美しい所であった。


始まりはここから。



村の南側に広がる森。
その森は広く深く、中がどうなっているのか、何が住んでいるのか、分からないことが多すぎた。

全てが把握出来ない。
入ったら出て来られない迷いの森だと皆が言う。



そこでの一つの出会いが僕の運命を変えた。


森には誰も近付かない。

すがすがしくて、静かな森の入り口は僕のお気に入りだった。

小さい頃から剣術を習っている僕は朝稽古をするのが日課だ。

けれど、村の朝は早い。

精神統一なんて、とてもじゃないがうるさくてしていられない。

静かな場所を求めて辿り着いたのがこの森だった。

 


誰もいない、自然の音しかしない静かな場所。

今日もくるくると跳ねる茶色い髪を揺らして、枢木スザクは森を訪れた。

枢木家はここら辺の村の中では、皇家に続く名家であった。

次期当主であるスザクは今年15歳になる。
継承まではまだ時間があるものの、最近は家の者たちがうるさかった。


そしてついに昨日、父と口論になり、スザクは家を飛び出してしまった。

そのまま家には帰らず、従姉妹であり、幼なじみである神楽耶の所に泊めてもらい、ここへ来たのだ。


剣を振るえば少しは気分も紛れると思っていた。


しかし、森はいつもと違っていた。


緑の中にドス黒い赤。
スザクの見たことのない黒い服を纏った青年が血まみれでそこに倒れていた。

異国の服に白い肌、見慣れているはずの黒髪ですら違うものに見える。

青年はとても美しかった。

乾き黒くなった血ですら青年を引き立てる一部となってしまっている。

 
 


しかし、そこは異様だった。

見るからにそこにいるはずのない人間。

彼からは自分とは違う何か別のものをスザクは感じた。


このままにしておいてはいけないと思う。

スザクの性格上どんなに異質であっても見なかったことにするという選択肢はあり得ない。


(でも、明らかに血まみれなんて怪しいよね。森にここまで出来る獣がいるなんて聞いたことないし・・・。でも、このままってわけにもいかない。)


少し悩んだが、スザクは助けることを決めた。


「わっ、軽っ。」


この際、服に血がつくのは仕方がないとし、自分よりも歳上であろう青年を横に抱き上げた。

少し、勢いを付けて抱き上げてみれば、スザクは反対にバランスを崩してしまう。

青年は予想以上に軽かったのだ。


(死んでないよね・・・。)


肌は青白く、身体は凍るように冷たかった。

それでも、胸が上下に動き呼吸していることを確認すると少しだけ安心する。

 
 


出血が多いようで、服は重たくなっていた。
早く、何とかしなければていう思いが先立ち、スザクは森を抜けて村へと駆けた。



村の外れ、スザクの通う道場の隣にある診療所。

看板には『原日野診療所』と書かれているそこへスザクは駆け込んだ。


「先生っ、先生いないんですか!!」


スザクは小さい頃、ケガをしてはここの世話になっていた。

今では少なくなったが、あの頃は毎日のように通っていた場所である。

小さい診療所だが、器具はそろっている。
この診療所の医者である原日野は見た目は少し危ないおじさんだが腕はいい。

人間としては・・・・ちょっと不安であるが、まぁ、大丈夫だろう。


「原日野先生ぇ―ーー!!」

「うっさいぞ、スザク。そんなに叫ばんでも聞こえている。今度は誰をヤっちまったんだ。」


診療所の奥から一人の男が出てきた。

 
 
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