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□拍手1:標的外標的
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八月下旬、某所――




標的外標的






「骸様」


ニット帽を被った眼鏡の少年が、前を歩く少年に小さく囁いた。
それに反応し、呼ばれた少年が不思議そうに振り返る。


「どうしました、千種?」
「柿ピー、何か見付けたー?」
「あれを」


もう一人の茶髪の少年の言葉――多分その呼称にだろうが――に軽く顔を顰めたが、そっと左方向を窺いつつ、周囲にそれを気付かれない程度にそちらを示せした。


「あそこに居るのは、もしかしたら『十陰』では?」
「トカゲ? なんらそれ、こんなとこにいるわけねーびょん」
「犬は黙ってて」
「むっきー!」


騒ぎ出す二人に構わず、骸は千種の示す場所へと視線を向けた。
人が賑わうこの場所で、人と人の波間に見えたその先――供えられた椅子の上に座する、三つの人影があった。
どれも大人のもので、一人は日本人、他二人はヨーロッパあたりの出身であろう顔つきをしている。
骸は、その二人を知りはしない。が、唯一の日本人の顔には見覚えがあった。
――アジアを代表する情報屋の一つ、『十陰(トカゲ)』だ。
彼は情報屋としては珍しく、素顔を公開しているから裏の人間からすれば一目で『彼』だと気付くのだ。
そしてそれは彼自身が持つ情報量の莫大さを物語っている。


「・・・犬」
「うぃ。えーっと・・・狼でいーや」


かちり、と歯形を交換すると、狼の刺青が頬に浮かびあがった。
周囲にばれないよう、毛が生えて尖ってきた耳を隠す様に押さえ、耳を欹てる。


「――で・・・たら、」
「それ・・・か・・・る、も――」
「せ――には・・・」
「――・・・っちも・・・て・・・んだ・・・」

「・・・良く聞こえないびょん。周りがうるさすぎ」
「そうですか・・・近づいてみますか?何か面白そうな話をしてるかもしれない」
「はい」


情報屋は、戦闘には向いていない。
だからこそ、本気で気配を断てば、それ相応の範囲までは近付くことができはする。ごく稀に、気配を察する事だけは一流の情報屋もいるが。


「だから、そこまでは教えられない」


不意に、十陰が苛立たしげに顔を顰めてそう言ったのが聞こえた。


「せめて性別と年齢、通っている学校くらいだ。それ以上は何も教えるつもりはないね」
「金は払う。だから――」
「幾ら注ぎ込まれても教えない」
「・・・わかった。それだけでいい、教えてくれ」
「交渉成立」


にやりと笑んだのは、十陰。


「女で今年13歳だ。並盛中学校ってとこに通ってる」
「どこだ、そのナミモリとは」
「教えると思う?」


不敵に笑んで、その笑みを見てか他二人は小さく息をのんだのが判った。


「情報なら教えるが、『スペランツァ』に危害を加えるつもりなら俺は容赦しない。俺を敵に回した組織がどうなるか知ってるだろ」

「「「!!」」」


スペランツァ。
その言葉に、骸達は眼を見開いた。

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