キミと僕らの92日間。
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「……と、いうわけだ。」
(シーーン)
柳くんが事のあらましを説明してくれて、私は静寂に包まれる部室内で今までにない居心地の悪さを感じていた。
目線だけを四方に配れば、左から柳くん、赤也くん、黒い人(外人さん?)、眼鏡、チョビしばり、(私)、ガム、そして真田くん。
真田くんは前に精市くんの病室で居合わせたことがあるから知ってる。
それに、柳くんと仲がいいみたいだからよくうちのクラス来るし。
(でも、まぁ……)
よくよく見れば皆さん見覚えがある、というか立海ではちょっとした有名人だ。
そんな面子に取り囲まれ、私は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「……………で、」
静寂を破ったのは対面に仁王立ちする真田くんだった。
まぁ彼は精市くんのいない今(っていうとなんか死んじゃったみたいだけど)このテニス部の責任者みたいなものだから、仕切って当然だ。
「お前はどうなんだ?」
お前…それって私のことデスカ?
キョロキョロと周りを見渡してからもう一度真田くんに視線を戻せば、
部室に入ってから微動だにしないしかめっ面で私を睨み見下ろしている。
(こ…コワイヨー!!)
思わず及び腰になる私を見兼ねてか、柳くんが割って入る。
「まぁそう責めてやるな弦一郎。
精市のことだ、きっと彼女もよく分からないままここにこうして座っているんだろう」
だな?と視線で促されれば、私はそうですその通り!と力の限り首を縦に振りまくった。
それを見た真田くんは、未だ不服そうな表情で私に一瞥くれると
「マネージャーなど我が部には必要あるまい」
と割と大きめな声で宣い。
デスヨネー、と私も胸中同意するも、幼なじみの笑顔がフラッシュバックすれば、口にするのは躊躇われた。
「一体幸村は何を考えているのだ」
「まぁあのブチョーのことじゃ、何も企んでないとは言えんのぅ」
ケケケ、と悪戯っ子のように笑ってみせたのはチョビしばり。
あ、この人しってる。
私の友達がファンなんだよね、なんかすごくモテるみたいで。
…と無意識のうちにまじまじ見つめてしまったら、
「なんじゃ、俺にヒトメボレか?」
とニヤニヤ顔で返されたので、慌ててそっぽを向いた。
「仁王くん、初対面の女性にそのようなことを言うのは失礼ですよ」
そっぽを向いた先の眼鏡が、少し眉を釣りながらチョビしばり(ニオーくん?)に注意する。
どうやら眼鏡は私の味方と判断して良いみたいだ。
「…あ〜もうめんどくせぇ、別にいんじゃねぇ?」
パン、とガムを弾く音に右を向けば、赤髪が私に近付いて顔を覗き込んできた。
(!)
反射的に身構えると、予想に反して彼はニッと笑い、
「べっつによぉ、居ても居なくても変わらないなら居てもいーじゃん、なぁジャッカル?」
「俺かよ?!」
ジャッカルと呼ばれた黒い人(あぁ、やっぱり外人さんだ。でも日本語だ)は突如自分に振られたことに驚きつつも、「彼女がいいならいいんじゃないか?」と頷いてくれた。
うん、多分この人も味方だ。
味方2。
私がキョロキョロしている間にも真田くんは眉一つ動かさず、精市くんの真意に考えを巡らせているようだった。
「弦一郎、ここで考えていても恐らく答えは出ないだろう。
この件に関してはひとまず幸村の意を飲み、彼女を迎え入れてはどうだろうか」
「だがしかし蓮二…」
「ああ、確かに女子がいる状況はこの部にとって今までにないことだ。
前例がないということは対処方も手探りということになる。
しかし、ここで彼女を帰したところであの精市が手を拱いていると思うか?」
「…………、思わん。」
うん私もそう思う。
思わず頷いてしまった。
…というか、
予想を裏切ることなく、このテニス部においても精市くんとゆう存在の影響力をまざまざと見せ付けられ、更に後に引けなくなった。
「…………むぅ、蓮二がそこまで言うのであれば…」
あ、やっと表情変わった。
真田くんの眉毛が少しだけ困ったように下がったのを合図に、私は晴れて(晴れて?)テニス部のマネージャーとなったのだった。
お
い
で
ま
せ
男子テニス部。
(とりあえず、眼鏡とジャッカルくんと仲良くなろ)