柳 蓮二
□夏のおわり
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夏が、終わる。
終わってしまう。
雲ひとつない澄み渡った空は哀愁さえ感じさせ。
「何を見ている?」
空から、
ではなく頭上から降る声の主は
「柳先輩」
「飛行機でも飛んでいたか?」
「いいえ」
ボーッとしていただけです、なんて言おうものなら
「マネージャーが部活中にサボりとは感心しないな」
…と先輩は言う。
とか言って、近頃ますます柳先輩に似てきたワタシ。ふふ。
そんなことを考えながら、いまだに空を見上げている柳先輩に水筒の麦茶を手渡す。
ありがとう、と受け取り、汗を拭きながら一杯飲み干した先輩を横目でなんとなしに見つめて。
「夏が、」
終わるなぁと思いまして。
それは同時に、
我がテニス部3年生の引退を告げるものであって。
「……夏が、ずっと続けばいいのに……
そう思いませんか?」
「フム…」
私の突拍子もない投げ掛けに、何やら考え込む様子の柳先輩は、
暫くして面を上げた。
「確かに夏は日本の風流を感じさせる季節ではあるがそれは巡る四季折々の中の一つだからこそよりそう感じるのであって……「先輩そーじゃなくて…
果てしなく続くように思えた柳論〜四季篇〜の句読点を待たずに割って入る。
もう。
…ちがうの、先輩。
私が言いたいのはね……
「あぁ、知っている」
フ、といつもの薄い笑いを浮かべて、先輩はコクと頷いた。
………知ってる、って、
「何がですか?」
「俺達の代の引退を寂しく感じているのだろう?」
違うか?と少しだけ眉を上げて見せる。
その仕草はやはり今も、
私の心の何処かをゆるゆるとほどいてくから、
「………はい…」
私は俯いて、素直に頷くことしか出来なかった。
どうしてかな。
私、顔に出てたのかな。
どうして解っちゃうの?
柳先輩は、私の思うこと。
私はこの1年間、先輩の口真似こそすれ、
先輩の考えてることなんか、これっぽっちだって解らなかったのに、ね。
でもね、
私はそんなによく出来たマネージャーじゃないから…
“3年生の先輩達”がいなくなるのが寂しいんじゃなくて…
もっと個人的な…感情なんです、これ。
あぁ もう!!
「先輩はズルいです」
「ほう」
「そうやっていつも先回りして、………私だけ…、いつも置いてけぼりです」
「…それは心外だな」
「先輩には私の気持ちなんてわかんない…です」
「俺が、お前と同じ感情を持っているとしても、か?」
ポン、
私のてっぺんから伝わる手のひらの温かな感覚は、
少しだけ肌寒くなってきた季節のせいだからじゃないと思う。
乗せられた手のひらが、
私のこの気持ちを受け止めてくれるなら…
「…っせんぱい、私、
「来月も
再来月も、
卒業しようと、
遠くで聞こえる真田先輩の号令を遮る距離、で
「お前だけはずっと、俺の隣にいればいい」
額に触れる唇が、
夏の終わりを、
告げた気がした。
夏のおわり
(そして、私たちのはじまり)