柳 蓮二

□寒空ラプソディ
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「可愛くないな」


そう言われるのは慣れてるから平気、なはずだった。


10月も半ばの寒空の下、私と柳は放課後の校門をくぐったところだった。


柳からの一言で、彼より数歩先をいく私の歩みはピタリ止まった。

が、追い付かれるのも困るので、またすぐ右足から前に出す。



私はマフラーをきゅ、と掴んで口元を隠した。

勿論、
後ろにいる彼からは私の表情は見えない。





平気なはずなのに

平気なはずなのに


なんでだ、
なんで、こんなに胸が痛いんだ。


じわり、目の奥が熱くなる。








委員会が長引いて
秋は日が短くて
空はもう薄暗くて


そんな、
そんな偶然が、たまたま重なったおかげで

柳が駅まで送ろう、って誘ってくれて。

ホントは嬉しかったんだ。

こんな私が、
私が、だよ?

女の子扱いされてるみたいで、すごく嬉しかったんだ。

あまりにそれは唐突で、びっくりしたけれど。


でも、クラスではサバけた私が、
そんな私を近くで見ているはずのあなたが、
嬉しさにはにかむ私を見たら、どう、思うのか


恥ずかしくて
……こわくて



「やだよ。アンタと並んで歩いてたら変な噂たてられそう」


心とは裏腹の返答で突っ返して

教室を飛び出した。





勘違いするな私よ。
柳はああいう奴なんだ、



早足で階段を駆け降りて、そう何回も胸中で繰り返していたら、

昇降口から「おい、待て」の声。





「ついてくんな!」

「俺も帰るのだから校門までは仕方ないだろう」

「なんかあるでしょ!
…………時間差出発とか!」

「俺がそんな無駄な時間を過ごす義務はない」

「私とアンタが一緒に帰る義務もない!」





そんな不毛な言い合いが続き、
そしてそれは冒頭の台詞で締め括られた。



「…どーせ可愛くねーっすよ。
知ってるし〜言われなくても」


明らかに子供じみたコトバ達が冷たい空気に溶けてゆく。


…自意識過剰だよ、
これじゃこっちが拘ってるみたいだ。

………バレバレ、だ。






泣きそう。









「…捕まえたぞ」






すぐ近くで低音。
掌に感じる体温。





柳に捕まれた手が早く脈打つのを自覚する。




〜〜〜なにすんのさ!





「こっちを向け」

「………断る。」

「…可愛くないな」

「だから知ってるってば!」



なんだよもう
これ以上私をからかうのはやめてくれ!









「可愛くない女に“可愛くない”、と言うと思うか?」










寒空ラプソディ







(知んないよそんなの!)
(お前は本当に、可愛くないな)
(うっさい黙れ!手ぇ離せ!)
(断る。)
(〜〜っなにそれ!)
(お前の真似だ)


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