柳 蓮二

□冬の三角形
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ねみみにみず、


(漢字知んないけど)


今まさに私の脳裏にその言葉が過る。


「………」

「間抜けな顔をしていないで、なんとか言ったらどうだ?」


先程の爆弾発言もこんな調子でさらりと言いやがりましたよね柳。


「聞こえなかったか?
弦一郎はお前のことが「あーー待って待ってわかった、分かったから!」


…やめてよ、これ以上の衝撃は私の命に関わる。

こんな、12月の寒い日に最も寒い屋上で寒い死に方なんて、したくない。





「そうか。分かったのなら戻るぞ。部活が始まる」

「ちょ、」


踵を返す柳の背中に制止をかける。


「…なんだ」


振り返った柳は
どこか不機嫌で。


「あの、さ、今のって真田に頼まれたわけ?」


あの真田がこんなに回りくどいことをするのだろうか、と私は疑問に思った。

多分真田なら直接言うんじゃないかな、って。



柳は少し宙を仰いでから「違う」と首を振る。



「え。じゃあ柳のおせっかい?」


それもそれで想像し難いが、(案の定、彼はムッとしているし)、続けて尋ねる。



「そういう言い方は癪に障る…が、あながち間違いでもないな」


お前への気持ちが弦一郎のプレイを不安定にさせている、それがこちらとしては迷惑でな、





……、
なんとも身勝手なおせっかいである。





そんな嘘か本当か定かじゃないような第三者からの告白を受けた私は


「どうしたらいいわけ?」

「さあな」



(さあな、じゃないっつの!)




もう、訳が分からない。

為す術なしじゃないか。






「マネージャー、辞めろってこと?」

「その必要はないだろう」




「…あのさ柳、
この呼び出しに意味はあったのでしょうか?」





私の知り得る限り、
柳は意味のないことをするほど馬鹿な奴じゃない。

何かしらの理由があってこんな行動を取っているに違いないから。


睨み上げると、予想外にも柳はフ、と笑った。

何がおかしいんだろう。





「確かに…どうかしているな、俺も」


自嘲気味に言って、柳は体をこちらに向き直した。










「正直なところ、

………俺が困る」






「は?」










「…俺にも悪影響ということだ」













冬の三角形










(っ……?!!)
(俺に辞められたくなければ俺を選ぶんだな)
(…や……辞めないくせに)
(辞めたら寂しいくせに)
(…自意識過剰)
(鈍感)


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