真田 弦一郎
□ないものねだりの悲しき産物
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「次、遊園地行こ!んで、来週は映画!あっ俺動物園も好き!どっか行きたいとこある?!」
「…………、」
ひどく、疲れる。
私は目の前の彼ではなく、先月別れた老け顔の家の畳の匂いを、本当に恋しく想った。
(あーぁ、気付いちゃったなぁ)
今すぐにでも奴の邸の畳にだらしなく寝そべりたい。
…尤も、そんなことをしていれば奴の雷がすぐに降ってくるのがお決まりだったけれど。
(たるんどる、ってね)
「なに笑ってんの?なんか面白い?」
茶髪の彼氏は、顔を近付けてくる。
「あなたって…」
“本当に楽しくて、つまらない人”
ファミレスの伝票を掴めば、席を立つ。
「、は………?」
もう二度とそんなマヌケ面を拝むこともないでしょう。
ごめんね、私の我が儘で。
でもお陰で自分の在るべき場所が分かったから。
(帰ろう、あの人の元へ)
ないものねだりの悲しき産物
(戻ってきちゃった)
(……………)
(ねぇまた私と付き合ってくれる?)
(……………)
(だいすきよ、弦一郎)
(……………馬鹿ものめが)