過去crap

□6月:真田
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アスファルトの湿った匂いが鼻腔を擽る。



ぽつぽつと降り始めた、
まだ小雨。





どうしようかな、
置き傘が教室にあったはずだけど

走って帰れば平気かな



しばし曇天を見つめながら
立ち往生。





ばさ、





と、
ふいに傘を広げる音に右を向く。





見れば、
同じクラスの真田君。

先刻の私と同じように
曇天を見つめている。

口を八の字に結んだ横顔は
いつもの事で。







「…今日も降ったか」


「…あ、うん、そだね」







独り言か話しかけられたのかよく分からないまま、
相槌をうってしまった。





そろりと、もう一度右を見れば、
真田君もこちらを向いていて。





「傘がないのか」





立ち尽くす私を見て呟く。

そして、
先刻広げた傘をこちらへ寄越す。


「これを使え」


少し驚き、
傘と真田君の顔を交互に見ていると



「どうした?不要んのか?」


眉を潜め、怪訝そうな顔。



「あっ、えと、そうじゃなくて…
真田君が濡れちゃうから」

「構わん。
走って帰れば問題ない」

「わ、私も走るから大丈夫だよ」

「む」




広げたままの傘を押し付け合う私達。





気付けば雨音は強くなっていて。










「…一つ提案なのだが」


ふいに、
思いついたように、真田君。

次ぐ言葉を促すように
小首を傾げれば、










「…い、一緒に帰る、というのはどうだ?」








顔を真っ赤にして言うから、
私は思わず吹き出してしまった。

だって私の中の真田君は、
そゆ事言うひとじゃないから。







昇降口にて、梅雨、6月。




(…えっと、それって相合傘だよ、ね)
(!そ、そうではない!)


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