過去crap

□7月:乾
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両手で自分を抱き締めるのは
温もりに飢えてるから、じゃなくて
















「寒…」

もう7月になったというのに、なんだこの気温は。

空をキッと睨み付けて、半袖シャツを着てきてしまった自分を呪う。

(でも朝はあったかかったもん。)

誰にするでもない言い訳は、尖らせた唇から零れることなく。


…もう、早くかえろ。


部室に鍵を掛けたのを確認すれば、
その扉にトゲトゲの影が映った。






振り向くと、
「あ、」
数十分前に帰ったはずの
「乾、」
が、いた。



「やあ」

「…“やあ”、って…
なに?なんか忘れもの?」



返事も待たず、
今しがた締めた扉に、再び鍵をあてがう。



「うん、まあね」

「もー、
早くしてよー寒いんだから」

「うん」







ガチャガチャとぶっきらぼうに扉を開けた、瞬間








ファサ、






という衣擦れの音と共に、肩の辺りがあたたかくなった









…のは、乾が私にジャージの上着を羽織らせたから、で。





(………………え、)











「君、半袖だったなぁと思い出してね」

「………なっ……、」







なに、

そんなことで
戻ってきたの?







「〜〜〜〜っ、」

私は俯いたままの顔を上げられない。

さっきまで悪態ついてたくせに、何も言葉が出てこなくて。


だって、こんな突然
こんな優しさ、
しかもそれは乾からのもので、



「…じゃ、気を付けて」


右手を軽く上げて、乾が踵を返す。





待って、


「…………いぬいっ!」













ああ、

振り向いた彼に、なんて言おう。













部室前にて、初夏、7月。




(あったかいよ乾)
(それは良かった)
(でもちょっと汗くさいよ乾)
(…一言多いな、君は…)


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