過去crap
□12月:乾
1ページ/1ページ
正直かったるいというのが実のところ。
いか焼きや焼きそばやりんご飴の複合臭よりも
人の多さに酔いそう。
(帰りたい…!
帰ってコタツに入りたい…!)
出来ることなら、
固く繋がれた手を振りほどいてUターンしたい衝動に駆られる。
(うぅ…
私ってばつくづくインドア派だ)
そんな自分の様子を察知したのか、
右上からクスクスという笑いが聞こえた。
「なぁに笑ってんのさぁ」
「帰ってコタツに入りたいと思っている確率90%」
「…残念だけど。
100%なのよね」
解ってるなら帰ろうよ、と言い掛けた言葉を呑み込む。
貞治は今日の初詣をいやに楽しみにしていたみたいで。
再三断ったもののめげずに誘い倒されたのだから、言ったところで帰ることになるわけもなく。
「ハハ、もう少しの辛抱だよ。
ほら、もうすぐ本堂だ」
貞治が指さす先には確かに本堂があるのだろうが、
(そりゃアンタはその図体のデカさで見えるでしょうけど!)
こちらからは前の人の背中しか見えなかった。
「お参りしたらりんご飴買ってよね」
どさくさ紛れに、根拠なきペナルティ代わりのおねだりをすると、貞治は「はいはい、」と再び苦笑した。
「あ。」
「?なに」
突然思い出したかのように貞治がこちらを見る。
「じゃあ俺からも2つお願いしよう」
「2つかよ」
なんだよ何のお願い?
なんだかニタニタ気持ち悪い笑みを浮かべる彼氏は、こう続ける。
「一つ目。
お賽銭の後の願掛けは、俺と一緒の願掛けにしよう」
「いや、貞治の願掛けなんて預かり知りませんが」
「分かるだろ?」
自信満々に諭されたら、
……分かる、気がしてきた。
「照れてる。」
「照れてないしっ!」
からかう貞治の甲を、
繋がれてない方の手でつねる。
「痛てて。」
「もう一つは何よ?」
照れ隠しに、少し攻撃的な物言いになったのは置いといて。
「うん。二つ目はね…」
神社で、大晦日、12月。
(ここでキスしないかい?
君の着物姿、可愛くて、ちょっと我慢の限界だ)
(なっ…バッ…!!
椎名林檎みたいなことゆうなー!!)
(大丈夫、人が多くて見えやしないから)
(いやだ!)
(しちゃうけどね)
(…………っ)
(ご馳走様)
(………鮎の塩焼きも買ってよね)
(ハイハイ)