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□小説の君
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君があの人といるのを見るだけで、あたしはどんどん嫌な子になっちゃう。
だって、君の髪も眼も…きっとまだ誰も触れていない唇も。
全部―――全部あたしのものなんだから。



あたしには大好きな人がいる。
あたしは女の子だし、大好きな人も女の子だけどそんなの全然気にしない、だって好きなんだもん。
彼女の名前は、篠宮結衣。
文芸部部長で後ろできゅっと結んだポニーテールがよく似合うすごい美人。
今もほら、あたしの隣の席で今度の部活動誌に載せる短編を執筆中だ。
あたしはその横で足をぶらぶらさせたり、余った原稿用紙に落書きをしたり。
あーあ。早く構ってくれないかなぁ。
そんなことを思っていたら、あたしの視線に気づいた結衣ちゃんがにっこり微笑んで―――あたしの頭に容赦ないチョップを叩きこんだ。
「いったぁああい!」
「なにもしないで人の顔じろじろ見てる佳奈が悪い。部誌原稿あがってないんでしょ?」
あぅぅ…そうだけど、殴ることないじゃない。
今ので書こうと思ってた物語の半分は飛んじゃったよ。
あたしが恨めしそうに唇をとがらせて、結衣ちゃんを見ると怖い顔がくずれて、すぐに笑い顔になる。
「そんな顔しないの。佳奈が書く小説、みんな楽しみにしているんだから。ちゃっちゃっと書いちゃいなさい」
そう言いながら、さり気なく頭に手を置かれて、もうそれだけで幸せになっちゃう。
こんな時間がずっと続いたらいいのになぁ……。
「あ、篠宮ちょっといいかな?」
―――来た。あたしの天敵。
「なに?吉田くん」
吉田は、先日行われた先輩方による、部長・副部長選出会議によって選出された文芸部の新副部長だ。
結衣ちゃんが部長になるのは分かりきってたことだったし、別にいいけど…なんでその補佐役である副部長がこの吉田なの?!
あたしの方が絶対結衣ちゃんのサポートには向いてるって言うのに…!
おかげで部活の時間、結衣ちゃんは吉田といる時間のほうが多くなってしまった。
部長会議とか、なにかある度に吉田が結衣ちゃんを連れていっちゃう。
「ごめんね、佳奈。ちょっと次の予算会議のことで話があるから…行ってくる。みんなの監督頼むね?」
「……はぁい」
返事をしたあたしの頭を軽く撫でて、背を向ける結衣ちゃん。
吉田と楽しそうに談笑しながら去っていくその背中に、思わず手を伸ばしそうになって…届かない右手を仕方なく引っ込めた。
叶わない恋だって、そんなのもうずっと前から分かってる。
「最近さー部長と副部長あやしーよねぇ」
「うん、よく一緒にいるもんね」
「案外もう付き合ってたりしてー」
そうだ、一般的に見ればあれが男女の正しい関係で…あたしたちはただの友達で……。
もしかしたら結衣ちゃんだって、望んで吉田といるのかもしれない。
あたしだって、結衣ちゃんと付き合えるなら男になりたかったよ。



―――神様は、とっても意地悪だ。





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