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□渇望する続編
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 高すぎも低すぎもしない男の声が教科書を読み上げる。とくにやる気があるとも思えないその声が、どうしてこうも何かを揺るがせるのか。有坂朋樹は机に頬杖をついて声の主を見つめていた。
「…で、このときのコイツ…おっと、私の心情は? 中田ぁー」
 気怠げにかさついた声が舟を漕いでいた生徒を指名する。指された生徒の方はしばらくまごついた後にわかりません、と答えて教科書を見つめた。
「ここテストに出るぞー覚えとけー」
 その言葉に反応しペンを走らせる者と興味なさげに欠伸をする者。教室後方の席に座る朋樹にはその差がはっきりと見て取れた。もっとも、朋樹自身後者に分類されるであろう態度を取っていたが。
 現代文の授業というのはどうしても苦手だ。自分が何を思っているのかすら分からないことがあるのに、どうして他人が創り出した世界の住人の心情など分かろうか。
 若い男の教師が黒板に綴る癖のある字をぼんやりと見つめる。少し角張って、縦に細い形が本人に似ている事実にうっそりと笑う。
「有坂ー、」
 唐突に名を呼ばれたことに動揺している自分に気付く。やばい、と焦るよりももう少し聴いていたい、という思いの方が先立った。
 ああもう、とどうしようもなくなって髪をかきあげる。
「なん、ですか。」
 咽にへばりついたようになってうまく出なかった声を、ふっと薄い唇が笑う。
「ここんとこ、読んでくれるか?」
 仕方なくガタリと音を立てて席を立った。教師の目がいつになく笑っているように見えるのは果たして気のせいかどうか。
 感づかれているのかもしれない、と半ば諦めのように思う。
 乾いた唇を舐めて教科書を読み始めた。ちらりと様子を窺うように視線を上げれば、目を細めた彼と目が合う。頬が赤らんでいたらどう説明すれば良いのだろう。必死で続けた朗読は平らで、なんの熱もこもってはいないかのようだった。
「おー、ありがとよ。」
 そう言ってくしゃりと笑う姿に、今はまだ、と思う。
 続きなんてない、とは気づきたくはなくて。





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最近年の差とかサラリーマン同士とかがキてます。…と、いうわけで久し振りの更新は教師に片思いする少年です(笑)
同性同士というだけでもその障害は大きいのに、職や年の差、そんなしがらみまで乗り越えてなにかを分かち合える関係を描けるひとに憧れます。

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