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□虚ろなユメを見てる。
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 音を殺したような静かな雨、灰色の曇天、行き交う車。あの日と同じ。まるでドラマのワンシーンのように、俺の脳裏に焼き付いて離れない悪夢が蘇る。
 目の前を黒い車が水を撥ね飛ばしながら走っていった。フラッシュバックする。
 音も立てず突っ込んできた車体。暗転。気付けば、彼奴は、俺の恋人は、濡れたアスファルトの縞模様の上に倒れていた。赤い血が流れ出して、雨と混ざり合って薄まっていく。その光景を、俺はただ何もできずに見つめていたんだ。
 今も。気付けばあの瞬間に立ち返ってしまう。救う事のできない恋人の"死"のシーンを、何度も何度もなぞってしまう。こんな、あの日と同じ雨の日は。

 だから目を閉じる。訪れてはくれない睡魔を喚ぶために白い錠剤に頼って、雨が降る日は努めて眠ろうとする。彼奴を忘れたいわけじゃない、彼奴がもういないという現実に耐えきれないんだ。そう、言い訳して。
 目が醒めると枕元で彼奴が俺を待ってくれているんじゃないか。そんな、馬鹿げた期待を込めて眠ることに身を委ねる。
 勿論、覚醒した俺の部屋には俺のほかには誰もいない。そんな事解ってる。だけど。
 夢のなかに時々現れる彼奴が言うんだ。好きだよ、って。あの頃より大人びた声で。それで俺はまた、束の間の幸せな幻惑に溺れる。ああ、俺も好きだよ、と。夢のなかの俺が応えられた事は、一度もないけれど。







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元々は別名義で活動中の同人サイトにupするつもりで書きましたが、だんだん彼らから遠ざかってきましたので此処に。←
しあわせな物語が苦手な一条は悲恋がすきです。究極の悲恋である死ネタがすきでs(ry


  

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