短編作品集A

□生まれてくれてありがとうって呟いた【3P】
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〇お読みになられる前に〇



・ED後捏造設定を含んでいます

・ローレライ解放前までの前半、アシュルクが成立していません

・EDエピローグの時点で帰って来たのはアッシュです

・でも後にアシュルクが成立します


以上の点をご理解の上での閲覧を宜しくお願いします。



〇〇〇〇〇〇〇〇

暗い紫色のどんよりとした瘴気に包まれた魔界(クリフォト)の空、そのあちこちから頻りに稲光が走る。

その魔界唯一の街・ローレライ教団の中枢部としてひっそりと存在してきたユリアシティ。
創世歴時代、フロート計画により上空に浮上した外殻大地ではなく、元の大地に暮らす道を選んだの人々を瘴気から守る為にとユリアによって建造された都市部を包む透明ドームの下では、黒い教団衣に身を包んだ若い剣士が稲光を具現化するが如く激昂している。

鮮血の二つ名を持つ神託の盾騎士団特務師団長でもあるその剣士アッシュが凝視している先には、同じ顔立ち同じ体格をした白い外套を纏う少年ルーク。


「…ま…さか…」

「レプリカ。」

「!!」

「そうヴァンが呼んでただろ?」


レプリカと呆然とそう小さく呟く朱色の少年に、そう深紅の剣士が鼻でせせら笑う。


「じゃあ…俺は…?」

「貴様はな、貴族でもなけりゃ人間でもねえ…」


そしてアッシュは決定的な断罪の宣告を下す。


「ただの創られた人形なんだよ!!」


自分の遺伝情報から生まれたレプリカ。
自分と同じルークの名前を抱くレプリカ。

度重なる忠告を無視し、アクゼリュスの街と大勢の住民の命を奪った罪人。

広大なファブレの屋敷の中で蝶よ花よと育てられたお人形。
外の世界を全く知らない、世間知らずの箱入りお坊ちゃん。
敵であっても人を傷つけたり殺す事を極端に怖れる臆病者。

遣り場の無い怒りを込めて、アッシュは断罪の言葉を突き付ける。


「……う……嘘だ…、嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘を吐くなああぁぁっっ!!」


明かされた自分の出生の秘密にすっかり我を失ったルークは、唐突に腰から引き抜いた剣でアッシュに斬りかかった。
だが、闇雲に振られるその切っ先はアッシュにとっては容易く受け止め弾けるものばかり。


「俺だって認めたくねぇよ! こんな…こんな屑に全部奪われたなんて……情けなくて反吐が出る!!」


レプリカなんてものは所詮オリジナルから生まれただけの劣化複写人間。
自分のレプリカなら少しは役に立つかもと、少しでも当てにしていた自分が間抜けだったと今更ながらアッシュは唇を噛み締めていた。


(コイツの所為で! この出来損ないが生まれた所為で俺は!!)


だが、止めとばかりに振り下ろそうとしたアッシュの剣の刃は、何故かルークに届くことは無く。


(……。だが、今更こんな出来損ないを殺したところで…)


自分を慕うレプリカを冷酷に切り棄てたヴァンの狂気じみた計画が止まる訳ではない。
力尽きて倒れたレプリカを前に、アッシュは忌々しげに剣を鞘に収めたのだった。




〇〇〇〇〇〇〇〇




10歳になって間もないあの日屋敷から連れ出され死に物狂いで帰ってみれば、レプリカが泣いていた。
自分の父親が、母親が、使用人たちや、幼なじみまでがそのレプリカをルークと呼び掛けていた。

幼いルークは絶望した。

迎えに来たと称して後を尾けていたヴァンの胸に縋り泣くしか、出来なかった。

かくしてルークは、アッシュと改名したルークにとっての限り無い憎悪の対象となった。

剣士としての腕前もさることながらも、神託の盾騎士団での苛酷な軍人生活の日々をアッシュはルークへの憎悪を糧に生き抜いて来た。
故に二度と会うことは無いだろう。アッシュは漠然とそう思っていた。

だが、運命は二人を結び付ける。

この事さえユリアの預言に詠まれていたのだとしたら、どんなに呪わしいものだったのろう。

導師イオン奪還の目的で乗り込んだマルクト軍陸艦タルタロス。
そこに自分と全く同じ声、同じ赤髪碧眼、同じ体格のレプリカが乗り合わせていたのだ。

ヴァンの話ではレプリカは屋敷から一歩も出られない軟禁生活を送っていた筈。
それなのに何故ここに居る。


『…お…オレが…俺が殺した…』


床に転がった暗紅色に染めた剣をそのままに両手を、唇を、身体を震わせているレプリカ。

何だ、アイツは。
何であんなに無様に震えてやがる!


『……人を殺すのが怖いのなら、剣なんて棄てちまいな!』




〇〇〇〇〇〇〇〇




出来損ない。
お坊ちゃん。
屑レプリカ。

自分の居場所を奪ったアイツをいつか殺してやるとまで憎しみを募らせていたというのに。
いざチャンスが巡ってきた時に、何故アイツを手に掛けられなかったのか。

ヴァンという同じ師匠を慕い、だがその師匠から人格そのものを否定されたレプリカ。
止めを刺さなかったのは、そんな彼に対する単なる哀れみなのか。

それとも…


(…チッ!)


アッシュは己の胸中に渦巻く冥い感情に苛立つ。

ティアのベッドで寝かされている己のレプリカは、まるで本当の人形のようにぴくりともせず。
アッシュはここでもルークを斬らなかった。

それどころか回線(チャネリング)と呼ばれる能力でルークの意識にリンクして、そのまま外殻大地に帰ったのだ。


(クソッ…俺は一体何がしたいんだ?)


アクゼリュス崩壊の衝撃に耐えた陸艦タルタロスで外殻大地に出て、ティア以外のかつてのルークの仲間達と行動を共にしながらも、アッシュはルークにビジョンを送り続けていた。

我儘坊ちゃんには失望したとあからさまに呆れているアニス。
相変わらず何を考えているのかがさっぱり読めないジェイド。
外殻大地に戻ってからずっと思い詰めている様子のガイ。
アッシュに何と話し掛けたらいいのかを戸惑うナタリア。

彼らの言動を肯定も否定もせず、アッシュはただ黙々とベルケンドへと進む。

そんな中で、唯一レプリカを擁護したのがローレライ教団導師イオンだった。


「ルークは誰よりも優しかった。今は大変でしょうが、いつか彼が立ち上がる事を信じています。」

「……導師らしい言葉だな。お優しい事で。」


あの時はイオンの言葉の意味を深く考えようともせず、アッシュは聞いたことを直ぐに忘れてしまっていた。



──それが今になって、こんな形で思い知るとは。


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