ご献上の品々

□隠れんぼから生まれた大騒動【4P】
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※ちみルーク君連載が始まる一年前くらい(ガイ20歳・ルーク外見年齢9歳)の設定です





事の始まりは、ルークとのかくれんぼ遊びだった。


「……やっぱりここにいたか。見つけたぞルーク!」

「んげっ! もう見つかっちゃった!?」


中庭に建てられたルークの部屋がある離れの棟。その裏手には綺麗に手入れされている生け垣がある。
そこに外見10歳に近くなった小さな身体を丸め身を隠していたルークの姿を認めた子守役のガイは、にっこりと笑った。

二人は所謂「鬼ごっこ」のまっ最中。ちなみにルークが隠れる役でガイがオニの役だ。

やはりここかとガイは笑ってはいたが、それでもファブレ公爵邸は広大な敷地面積を持っている。
その広い屋敷中を捜し回ってはいたのだろう。彼の額には汗がうっすらと浮かんでおり、彼ご自慢の明るい金の前髪がぺったりの引っ付いていた。
そのガイに服の埃を払ってもらい立ち上がりながら、ルークは愛らしい顔を顰めていた。

(……ちえっ、俺がオニん時はちっとも見つからないのに〜!)

してやったりな笑みを浮かべている少年に対する嫉妬心で、ルークの機嫌は急降下中だ。
だからこんな愚痴も飛び出す。


「むうう〜っ、見つけるの早過ぎるよ! ガイばっか狡い!」

「おいおい狡いって……そんなにむくれるなよルーク。それに、何年おまえと顔を付き合わせてると思ってるんだ?」

「あう…」


痛いトコロを突かれ、ルークは言葉に詰まる。
何せ記憶も何もかも無くして赤ん坊同然になった自分を根気よく面倒を見てくれた相手なのだ。ガイは。


「それに、おまえの隠れそうなトコって分かりやすいんだよな。」

「へ??」


ニコニコ笑うガイに、ルークは小首を傾げる。
幼い子供独特のお餅のようなふっくらとした、艶やかな頬っぺた。それを美味しそうにぷくうっと脹らませながら小首を傾げたこの仕草にガイは可愛いなと不覚にも一瞬だけそう思ってしまった。


「ねえ、ガイ〜?」

「……あ…そりゃおまえ、いつも俺が隠れてる場所しか隠れないだろ?」

「え? そうだったっけ??」


誘拐前より小さくなった身体に反比例して大きくなった(ようにガイには見える)翡翠の瞳がまん丸くなり、真剣に驚いている様子にガイは頭が痛くなった。


「……あのなぁルーク。かくれんぼっていうのはたな、頭を使う遊びなんだ。ただ隠れりゃいいってもんじやない。」

「頭を使うって、隠れる時にも要るの?」

「そんな事を言うのはどうかと思うぞルーク。鬼ごっこってのはな、意外と奧が深いモンなんだぞ?」

「ふーん……」


最もらしく言う子守役の言葉に、ルークは漠然と頷いた。


「よし、解ったなら交代だ。今度は俺が隠れておまえがオニ」
「ねえガイ、俺、もういっぺん隠れるのやりたい!」


ルークの唐突な発言にガイは一瞬言葉を失った。


「だからガイが教えてくれた“頭を使うかくれんぼ”ってやつ、俺やってみたいんだけど……やっぱダメ?」


ことん。


「ダメかなぁ…?」


うるうる。

只でさえ愛らしい顔立ちをしているルークの小首傾げに、主人に甘えた仔犬のような上目遣いがオプション。

(…おいおいおい…これは反則だろう!?)

こういう時ばかり小悪魔になりやがって、このご主人様は。
ガイ少年は慌ててポケットから取り出したティッシュで鼻を押さとながら、笑顔を取り繕う。


「……どうしたのガイ、もしかして寒いの? 風邪でも引いた?」

「え? あ、いやまあ…鼻水が出かけただけだよ。だから大丈夫。」

「ふーん。ならいいけど…」


しかも困った事に、この幼いご主人様は無自覚の天然なのだ。
…だから始末が悪い。


(まさかおまえ可愛さに悶えかけたなんて、口が裂けても言えるわけないだろ)

動揺を隠すように取り繕う笑みを浮かべたガイは、ぐしゃぐしゃにしたティッシュを無造作にズボンのポケットに突っ込んだ。


「それよりも俺がまたオニやっていいのなら、はいこれ。もう一度な。」

「うん、がんばる!」


何かを受け止めようとするルークの小さな両の手のひらに、ガイは上着の胸ポケットに仕舞い込んでいた小さな懐中時計を握らせた。


「えと、じゃあ今度はどの数字までに隠れたらいいの?」

「そうだなあ……今丁度12のトコに長い針があるから、2の次の“3”になるまでだな。」


ガイがそう言うと、ルークは懐中時計の文字盤に目を凝らして唸っている。


「えっと、さん…さんって…あ、解ったこれの事?」

「ああそうだ。よく出来たなルーク。」

「えへへ…」


ルークが指差しと誉められたのは数の3を表すフォニック文字だ。

あの誘拐事件以来、いままでの記憶や身体の成長と共に日常生活の知識まで失った彼の為に。
たった今ガイがルークに握らせた金の懐中時計は、時間概念を学ぶ為の“学習教材”として普段から活用している。

どうせ教えるなら机上の理論ではなく、普段の生活に密着した実践形式のほうがいい。
ルーク付きの家庭教師からこっそり教わったガイが思いついたのが『遊びの中で知識を体得する』というこの方法だった。
ちなみにこの時計方式は、ガイがガルディオス伯爵家の嫡子であった幼い頃。今は亡き姉マリィベルから時間概念の勉強にと教わったやり方と全く同じであったりもする。
小さい時の思い出はガイにとっては未だ憎しみ渦巻くものではあるが、それはルークが引き起こした事ではない。だからルークに憎しみや恨みをぶつけるのはお門違いだと、ガイは充分自覚していた。


さて、かくれんぼという遊びは「もういいかい」「まあだだよ」と言葉の掛け合いを楽しむものだが、このだだっ広い公爵邸の中では無闇に言うことは出来ない。昔、屋敷に訪れる客人の迷惑になるから止めなさいとルークが父親から厳しく叱責されたのがその理由だ。

だが“懐中時計で予め隠れる制限時間を設けておいて、時間が過ぎれば問答無用でオニが探しに行く”というこの方法なら、公爵や客人の迷惑になる心配は無い。
こうした面でも、懐中時計方式は大きなメリットになっていたのである。



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