大切な宝箱

□共同戦線【アシュルク+黒ミュウ】(3P)
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「…いきなり押しかけてきて、開口一番がそれか、チビ」

「チビって言うんじゃねぇ!俺にはミュウって名前がある!!」

とある町の宿屋の一室。

ガルド稼ぎをするために、ギリギリまで酷使した身体を休めようと入った宿屋に、ルーク達も滞在していたのは全くの偶然だった。

受付でチェックインをしていたアッシュの視界に写ったのは、廊下を移動する青く小さな物体。
それが、ローレライ教団では聖獣と呼ばれているチーグルで、ルーク達と一緒に旅をしているミュウだと気付くには、そんなに時間はかからなかった。

「あ…アッシュじゃねーか!」

「……オヤジ、この付近に別に宿は…」

「この町の宿屋はここだけだよ。ちなみに、次の町までは半日以上かかるぜ」

「………ならば、あいつ等の部屋とは離れた場所に頼む」

「良い所で会ったぜ!アッシュ、ちょっとお前の部屋に連れて行けよ!」

ガシ!よじよじよじ、と背中を這い上がるチーグルに、アッシュの眉間の皺が深くなる。
ミュウは、そんなアッシュなど気にする様子も無く、肩によじ登ると、耳元で叫んだ。

「早く!ジェイドやガイに見つかると色々都合が悪いんだ!」

「…判ったから耳元で叫ぶな、屑が」

眉間を震わせながらアッシュは言うと、鍵を受け取って部屋へと入る。
外套を脱ぎ、無造作に投げ出したアッシュは、側にあった椅子に座ると、頭の上に乗ったままのミュウをベッドへと投げ出した。

「うわ!いきなり何しやがる!」

悪態をつくミュウを睨み、アッシュはため息をついた。
この小さな聖獣は、ルーク達の前では「ですのー!」などと可愛いキャラを演じているが、実際にはご覧の通りの性格で、普段の可愛らしさなどは欠けらもない。
アッシュは以前、偶然にもこの状態のミュウに遭遇した事があり、それ以来アッシュの前では素の顔で話すようになっていた。

「…喧しい。こっちは疲れてんだ。用件は手短にしろ」

ぼすん、と背中から落ちたミュウの抗議に、冷ややかな視線を向けたアッシュは、水差しから水を注ぐとコップを一気に空ける。

「……ルークの貞操の危機だ」

ぶふ!!て豪快に水を噴いたまま、むせて咳き込むアッシュの姿を、ミュウは冷静に見つめた。

「……汚ねぇなぁ、もう」

「…開口一番がそれか、チビ。…ごほっ…」

「チビって言うな!俺にはミュウって名前がある!」

「喧しい。で?あのレプリカが?」

「そう!ルークの貞操が危ねぇんだって!!」

聖獣と呼ばれているチーグルの口から、貞操などという単語が出てくるなど、教団の連中が聞いたら卒倒しそうだ。と、アッシュは思いながら、ミュウの隣に腰掛ける。

「とりあえず、判るように説明しろ」

「元々、この町に寄る予定は無かったんだよ。それが今日になって突然、ジェイドが《疲れたので立ち寄りましょう》なーんて言い出しやがって」

「…あの眼鏡が?」

アッシュは片方の眉を上げ、訝し気な表情を浮かべる。
軍人として訓練を受けているジェイドが、いくら最年長とはいえ、誰よりも先に疲労を訴えるなど、不自然極まりないからだ。

「で、ここに来たんだけどさ。…あいつらまず、俺とルークを引き離したんだ。今まで一度もそんな事言わなかったクセに…」

「…もしかして、テメェがルークと一緒の部屋じゃない、ってのがどうしてレプリカの…危機になるってんだ」

“貞操”という言葉が気恥ずかしく、アッシュは少し間を置いて続ける。
そんなアッシュに、ミュウは興奮した様子で言った。
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