大切な宝箱

□小さな赤毛と大いなる萌え【仔アシュルク+女性陣】(2P)
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とある日のファブレ公爵邸。

初夏の日差しが降り注ぐサンルームに、ふるふると肩を震わせた女性陣がいた。
顔を紅潮させ、瞳まで潤ませているのは、気のせいではないだろう。

「マルクトのカーティス様の協力を得ましたのよ。いかがかしら?」

にっこりと笑顔を浮かべているのは、公爵夫人であり、今では彼女達の絶対的なリーダーとなったシュザンヌ。

「叔母様…!わたくし、こんなに可愛らしいものは見たことがございませんわッッ!」


キラキラと目を輝かせているのは、キムラスカランバルディア王国の王女であり、数年後には女王となるはずのナタリア。

「きゃわ〜ん!!フローリアンも可愛いけど…この破壊力はまた…!!」

両手を握りしめ、ナタリアと同じく目を輝かせているのは、現在ローレライ教団の中枢を担っているアニス。

「…か……可愛い……ッッ!!!」

瞳を潤ませ、祈るように両手を組んで、今にも気を失いそうになっているのは、今ではユリアシティの代表となったティア。

そして……

「……じりょじりょみりゅな!」
「あちゅ…るー、こわい…」

四人の視線の先には、抱き合って震えている小さな二人の赤毛がいた。


事の発端は、ナタリアがシュザンヌに持ちかけた相談事だった。
夏にキムラスカで行われる巨大イベントでの新刊の内容が決まらない、とため息と共に言ったナタリアに、シュザンヌは秘密裏にマルクトに連絡を取り、今の状況が出来上がったのだ。

「さ、これで何かしらのネタになるかしら?」
「なりますとも!ならないわけがございませんわ!」
「……ちみっこかぁ〜…これは良いよね!」
「可愛いチビ赤毛……!たまらないわ」

興奮気味に言うナタリアとアニス、そしてティアに、シュザンヌも満足気に頷く。
だが、いきなり小さくされたアッシュはたまったものではない。
ルークと違い、思考回路まで幼くなるわけではない彼は、必死になってこの場から逃げる方法を考えていた。

「ははうえ…こりぇはいったい…?」
「アッシュ、これもキムラスカの財政のため。しばらくの間辛抱なさい」
「でしゅが、わたしにもりゅーくにもしごとが…」
「ラムダスに言って、今日明日は休むようにしております。心配はありませんよ?」
「このあと、ちちうえによばりぇておりましゅが…」
「旦那様に?……ふふ、わたくしが後でお話いたしましょうね」

アッシュが何を言っても、シュザンヌは笑顔を崩さない。
しかし、その笑顔の奥に、言い知れない迫力を感じて、アッシュはそれ以上言葉を発する事ができなかった。

「あちゅ……こわいよぉ…」

女性陣の迫力に怯えたルークが、大きな瞳に涙をためてアッシュにしがみつく。
その姿でさえ、彼女達からは「可愛いー!」と悲鳴が上がった。

「…こい、くじゅ」
「うん」

震えるルークの身体を抱きしめ、アッシュは女性陣を睨みつける。
迫力が無いのは承知していたが、とにかくこの包囲網を何とかしなければ、ルークが怯えるばかりだ。

「りゅーくがなく!いいかげんにしりょ!」
「……それもそうですわね」
「泣いたトコも見たい気がするけど…」
「とりあえずスケッチしましょうか」

何気に恐ろしい台詞があったのは聞かなかったフリをして、アッシュはルークをクッションの上に座らせると、メイドが用意したおやつをルークの前に差し出した。

「こりぇでもくえ、りゅーく」
「うん……あちゅは?」
「おりぇはいい」
「んじゃ、いただきまぁーす!」

皿の上に盛られたクッキーとケーキを手に、ルークは嬉しそうな表情で笑う。
その瞬間、女性陣の方から大きな音が上がった。

「…ちょ…!あれ、反則…!!!」
「ティア?!しっかりしてくださいませ?!」
「だ、大丈夫よ…ごめんなさい、思わず気が遠くなったわ…」

大きなテーブルへと移動した三人は、はうはうと震えながらも、右手を止めることは無い。
そしてシュザンヌは、女性陣の様子に、満足げに微笑みながらゆったりとソファに腰かけていた。
隣に立つメイドが構えているのは、シェリダンの技師に命じて作らせた映像保存用の音機関。
莫大な開発費は、全て公爵の小遣いからだと風の噂に聞いている。

「あちゅー、のどかわいたー」
「……おちゃがありゅだろうが」
「るー、もうのんじゃったよ?」

見れば、ルークの前に置かれたカップは綺麗に空になっている。
仕方なく、アッシュは重いポットを何とか傾けてルークにおかわりを注いでやる。
ミルクと砂糖も入れて差し出せば、またもや満面の笑みがルークの顔に張り付いた。

「あちゅ、ありがとー!」
「…べちゅに、れいをいわれりゅことじゃねぇ」
「でも、るー、うれしいよ?」
「あちゅいから、きをちゅけろ?」
「うん!ふーふーすゆ!」

ニコニコと笑うルークの隣に腰かけたアッシュの耳に、「ツンデレだわ…!」「あんなに小さいのに…恐ろしい子!」と言った声が聞こえてくるが、あえて無視した。
今の自分の状態では、何を言っても女性陣は喜ぶだろう。
なおかつ、目の前にシュザンヌがいる以上、抵抗するのは無駄だ。


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