短編作品集@

□たとえ消えてなくなっても【2P】
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※ザレッホ火山二回目クリア前後設定で、悲恋話です。









〇〇〇〇〇〇〇〇

ルーク。


僕の大好きなひと。


僕に生きる歓びを教えてくれた、大切なひと。



僕は他のイオンレプリカと一緒に道師としての役割を求められて生まれ、そして僕が道師に相応しいと選ばれました。

だから僕がオリジナルの、イオンの名前を継ぐことになったんです。


このオールドラントに存在するどんな国家権力よりも最も権威あるローレライ教団、最高位にある道師。
それに、僕はすんなりと納まりました。


けれど、僕の存在は道師という名前のお飾りにしか過ぎませんでした。
それを裏付けるように教団の幹部の人や門戸を叩く信者の皆さんとも交流していく内に、皆は僕ではなくて、僕を通じてユリアの預言を欲しているのだと次第に解ってきました。


僕が僕である必要なんて、ない。
本当の僕を必要とする人なんて、たぶん僕の前には現れない。

だから僕は喜怒哀楽といった感情を押し殺すことで、僕自身を守ることにしたんです。


『誰にも分け隔て無く、どこまでもお優しい道師様』

だから平和の象徴なのだと、僕のことをダアトの人も教団の皆さんもそう自慢気に語っていました。

僕を生み出した人達も、僕が大人しく道師を務めている事それだけに満足していました。

いつしか僕は、今の境遇に甘んじて“道師”を演じていくようになりました。
ですが。
そんな現実に、どこか納得のいかない自分の存在もかすかに感じていました。



僕って、なんなのだろう。
生きる意味って、何だろう。



このまま己を殺して教団の道師を演じて一生を送ることでいいのだろうか、と。


折しもこの頃は二大大国であるキムラスカ・ランバルディア王国とマルクト帝国の仲が険悪になり、小競り合いが戦乱へと膨れ上がりつつありました。

また、争いが起きる。

争いは人の心身に多大な傷痕しか残さないのに、将来への禍根しか遺さないだけだというのに。

ですが僕を作った人達は、“これでユリアの預言通りになり、オールドラントに繁栄の時代が来る!”と沸いていました。


偉大な預言士にして始祖であるユリア・ジュエの遺した預言を遵守し、来るべき未曾有の繁栄の到来を待ちながら慎ましく生きる。
それが、僕達ローレライ教団に属する者の教えです。

ですが、いくらユリアの預言だからと言って、戦乱が起きるのを手を拱いていて良いものでしょうか。

芽生えかけた疑念は留まることは無く、折しもマルクト側から持ち掛けられた和平交渉を好機に僕はダアトを脱してキムラスカを目指すことにしました。


そしてその旅先で僕は、あなたに出逢いました。


僕より歳上に見えるのに仕草が幼い子供そのもので、裏表が全くない彼。

預言を巡って駆け引きに明け暮れるあのダアトの人たちとはまるで違う、世間から徹底的に隔離されて育てられた酷く純粋な魂の持ち主。


憧れました。

彼の行動ひとつひとつが、あまりにも眩しかった。

どこか危なっかしいところも、突き放したようなぶっきらぼうな優しさも。

いつしか僕は、そんなあなたを守りたいと思うようになってきました。

師匠と慕っていたヴァンに手酷く裏切られた傷を今も尚引きずっているあなた。
滅亡へのカウントダウンに抗うと頑張るあなたの力に少しでもなりたくて、僕は預言を詠むことを決意しました。


少しでも重荷を取り除いてやりたかった。あなたの幸せそうな満面の笑顔が見たかった。
あなたの涙はとても綺麗で痛々しくて、見ていられないから。


「……さあ、道師イオンよ。あなたにはこの譜石から、惑星預言を詠んでいただきましょう。」


モースに脅迫されたアニスによってザレッホ火山の最奥に連れて来られた僕を待っていたのは、以前皆と一緒に来たあの広場に隠されていた巨大な譜石でした。


「わかりました。この譜石から惑星預言を詠めばいいんですね?」


火山の熱に晒されているにも拘らずどこか冷たい光を放つ譜石を前に、僕は息を飲みました。


ルーク。
これから惑星預言を詠む僕は、あなたの力になる預言も詠む事になります。
そうしたらこの脆弱な僕の身体はおそらく、この世界から消え去ることになるでしょう。

悔いはありませんが、きっとまたあなたを泣かせてしまいますね。
……それだけが心残りです。


ですが、僕はもう決めたんです。
大好きなあなたの為に、あなたのこれからの道しるべを遺すと。

たった二年しかこの世界に生きていられなかったけれど、僕は幸せでした。

あなたと出会えた。

あなたを愛することを知り、本当の意味で人を愛する事を知り、道師イオンとして与えられた力を僕の意志で受け止め前に進む決意も固められました。

ありがとう。



“──…聖なる焔の光は、穢れし気の浄化を求め、キムラスカの音機関都市へ向かう…”


たとえこの身が音素の粒子と消えて無くなっても、僕の魂は常にあなたの事を祈り続けます。


“そこで咎とされた力を用い、瘴気を払い人々を救う術を見つけるだろう…───”


この世界に生まれて七年の歳月を、閉ざされた世界で過ごしていたあなた。

世界に出て一年足らずのあまりにも幼いあなたに、これからの人生が少しでも幸せなものでありますようにと。







……ああ、僕の名前を呼ぶあなたの声が聞こえる。


泣いて、くれるのですね。

ありがとう。僕の為に泣いてくれて。


今までありがとう。
僕の一番大切な思い出をくれた、ルーク。

あなたが知るイオンが僕しかいないと言うのなら、僕にとっての聖なる焔の光はあなただけでした。


ありがとう。
僕の、一番大切な…──


大切なルーク。



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