お題で習作置き場

□何気ない日常で10のお題
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01.目覚まし時計(ポケスペ:グリブル)

 ふ、と目が覚めた。
 何の前触れもなく目が覚めたことを疑問に思いながら、グリーンはその視線を目覚まし時計へと向けようとして、止まった。
 「グリーン。目が覚めたのね!」
 きん、と耳に響く女の声。
 「ブルー……?」
 「もう! 倒れたって聞いて、心臓が止まっちゃうかと思ったわ!」
 ヒステリックでさえある彼女の声が、今ある状態を彼に得心させた。
 薬のにおいに満ちた部屋。真っ白なシーツに包まれた自分。
 目覚まし時計が所定の位置にないことからも、自室のベッドで起床、ではあり得ない。
 「病院、か」
 「動いちゃ駄目よ。点滴が外れちゃうから」
 ごそり、と身じろぎしたグリーンを軽く抑え、ブルーは窘(たしな)める。
 「医師(せんせい)が言うには、重度の疲労だそうよ。……まったく。アタシがジョウトに行っていた間、どんな仕事の詰め方してたのよ」
 呆れたようなため息をつきながら、それでも目は心配げに揺れている。
 「大したことない」
 「訳ないでしょ。丸二日(ふつか)、寝っぱなしだったんだから」
 「そんなにか?」
 ギョッとして、あわてて記憶を手繰(たぐ)るグリーン。
 そして思い出されたのは、気絶する寸前のこと。
 レッドに誘われて、ジムを閉めた後にしたポケモンバトルの経過と、不意に足元から闇に突き落とされたような感覚。
 それから先、ぶつり、と、出来損ないのテープのように、記憶が途切れている。
 「……レッドに、悪いことしたな」
 「まあ、そうでしょうね。すっかりパニクっちゃって、気絶したグリーン抱えたまんま、アタシにポケギア入れてきたくらいだし」
 ――どうやら悪いことをしたのは、レッドだけにではないらしい。
 「だから、レッドにグリーンを病院連れてくように指示して、オーキド博士に連絡入れて入院手続きしてもらって、アタシはジョウトからソッコー帰ってきたんだからね」
 きろり、と睨んで、ブルーはグリーンの枕元へ丸椅子を引いて座る。
 「悪かった」
 「ホントに、……心配、したんだから」
 「ああ。すまなかった」
 珍しく神妙なグリーンの声に、ブルーは気を取り直したようで、
 「反省してるようだし、許してあげるわ。――にしても、ほんっっっとーーーに世話が焼けるわね、グリーンってば」
 しめっぽさを吹っ切ろうとしてか、からかうようにそう言った。
 そんなブルーの言葉に、そこまで言うか、という表情をグリーンは浮かべたが、この状況では分が悪いと思ったのだろう。
 「……寝る」
 一言投げると、目をつむった。
 「怒った?」
 「……怒ってない」
 「ふふ。ごめんね」
 「別に謝る必要、ないだろう」
 「うん」
 「これからは、もっと気をつける」
 「もう、こんなのは嫌だからね」
 「分かった――」
 頷き、身体の芯にまでつもった疲れのためか、そのまま眠りに引きずり込まれたグリーンの寝顔に、
 「本当に、約束だからね」
 ささやきつつ、ブルーは彼の髪に指を通し、軽く梳いた。
 その存在を、確かめるように。



一言:ブルー姐さんの、脆い部分を描いてみました。
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