お題で習作置き場
□何気ない日常で10のお題
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06.空いた本棚(ポケスペ:イエグリ)
ニビシティに、カントー1を誇る図書館が建造された。
それは博物館に続いての学術的な建物で、ニビシティは文化都市の方面へ街の位置づけを行なったようだ。
そんな中、グリーンとイエローは本を抱えてその図書館へ向かっていた。
まだ最終的な準備が行なわれているので、本来なら関係者以外立ち入り禁止なのだが、オーキドの蔵書を寄贈する名目があるので、咎められる心配はない。
「手伝わせてしまって、すまないな」
「そんな! これくらい何でもないです」
本来、祖父に頼まれたグリーンは、ひとりで行なう心算だった。
しかし寄贈書の量はあまりにも膨大で、たまたま研究所に来ていたイエローが手伝いを申し出たのだ。
リザードンの背を借りてのマサラ−ニビ間は、あっという間だったが。
これでも、リザードンを留まらせたニビシティ郊外と街の中心部に位置するニビ図書館を三往復目とあって、イエローの足取りは確実に遅くなっていた。
「これで最後だから、終わったら休憩を取ろう」
その言葉に励まされ、イエローはグリーンの背中を追い、司書の指示に従って図書館の二階へと昇っていく。
さすがに、カントー1を誇る図書館。
一階はどちらかというと一般向けで、ビデオルームや絵本やおもちゃなどの子供用のエリア、手軽な小説が主だった場所だったが。
二階は、科学や経済、機械工学、歴史、ポケモンの生態や研究など、専門知識を求める人のための学術書が、エリアごとに区分されている。
「こっちだ」
しん、と静まり返った空間を、グリーンの声は乱さない。
足元をふかり、と受け止めるじゅうたんも、整然と並んだ重厚な色合いを見せる本棚も、二人が二階に上ってきた事実を覆い隠してしまった。
かたん。
耳に届いたのは、かすかな音。
思わず、グリーンとイエローは互いを見合わせた。
その後に続く、奇妙な息遣い。
病人でもいるのか!? と緊迫の表情を二人は顔に乗せて、音のする方向へ足を向ける。
しかし、空いた本棚越しの光景に、本を落としそうになったイエロー。
その隣で、うんざりとため息をつくグリーン。
視線の先には、接吻(くちづけ)を交わし合う男女の姿。
「イエロー。本置いて、とっとと出よう」
ぼそり、とさらに声を落としたグリーンに頷き、適当なテーブルに本を置いて、二人は静かにその場を、そして図書館を去った。
見てしまった光景を振り切るように。
知らない間に足早になっていて、時間のエアポケットで、人気(ひとけ)のない公園にたどり着いた時には、グリーンもイエローも軽く息を弾ませていた。
ま、顔が赤くなっているのは、それだけが理由ではないが。
ベンチに座り、気まずさに視線を揺らすグリーンとイエローだったが、
「え、えと……グリーンさん、キスってしたことありますか?」
その空気にすっかりあてられていたイエローは、あの光景を見てからずっと胸に疼く疑問を抑え切れなくて、突然、そう訊いた。
キスシーンを目撃した時より、自分の顔が熱くなっているのをイエローは知覚する。
(あ、グリーンさん。目が真ん丸くなってる)
自分の問いにグリーンが表情を変えたことを、嬉しく思いながら。
「……何で、そんなこと訊くんだ?」
取り繕うように、怪訝な表情を浮かべたグリーンの顔。
興味本位なら答える気はない、と続けるその言葉に。
「し、」
「し?」
「知りたいんです、グリーンさんのことが」
でも、これだけでは言葉が足りない。
(これじゃあ、好奇心で訊いたかと思われる……!)
嫌われるかもしれない、という焦りで訳が分からなくなったイエローは、
「ボクは、グリーンさんが好きだから!」
思わず告白をしてしまい、一呼吸置いて、
「っっっ!!」
ぽん、と音がしないのが不思議なくらい、グリーンの顔は真っ赤に染まった。
一言:ホントは、イエローがグリーンにキスするはずだったんだけど……挫折。