お題で習作置き場

□恋愛的お題 ■love
14ページ/32ページ

■ あまい甘い

僕は最初から真面目に本気だったのになぁ(ミツル視点)

 小さな頃から僕は病弱で。
 そういう人間の常で、相手の気持ちを量って相手の欲しい言葉をつむぐのに、苦労したことなんてないはずなのに。
 「ねえ? どうすればいいと思う?」
 目の前で首を傾げる、僕の憧れを形にしたような女の子――ハルカさんの言葉に、どう答えていいのか分からない。
 (嫌われたくないから? とゆーか、すでに別の人のものなのに)
 カノカレというレベルではなく、二人は婚約者同士なのだ。
 だけど、おそるおそる言葉を口にしてみる。
 「そう言われても……ユウキ君、素で人を喜ばせること言える人だけど、だからこそ、言おうとして言うってことが出来ない人だからねぇ」
 「そうなの。そーゆーところも好きなんだけど、やっぱり言って欲しい!」
 「――愛の言葉、ねぇ」
 「フィールドワークの時も、毎晩ちゃんとポケナビしてくれて近状報告してくれるし、なれかれと気にかけてくれるけど」
 そう言いながら、目が泳いでいるハルカさん。
 「傍にいてくれる時は、仕草や視線でユウキ君は示してくれるけど」
 「つまり、寂しいってことなんだね」
 「――うん。ユウキ君の甘い言葉があれば、寂しいって思わずにすむかなぁ……って」
 「ただ寂しいってだけなら、僕がいくらでも言ってあげるけど。それじゃあ意味ないんだよね?」
 僕の言葉に、目を真ん丸くしている。
 それから、ゆるゆると顔を赤く染めていった。
 「ええっと……そんな冗談言うほど、あたしってヘコんで見えた?」
 「え? あ、うん。何か、すっごく『寂しい〜』って感じだったよ」
 一瞬、戸惑ったけれど、何とかハルカさんの考えに即した言葉を口にする。
 「……そっか」
 そう呟いたっきり、ハルカさんは下を向いてしまったので、僕は失敗したのかと不安になったが、次に顔を上げた時、彼女の口元は笑みを浮かべていた。
 「ありがとう」
 「べ、別に、お礼言われるようなこと、僕は、」
 言ってない、と続けようとした僕に、
 「変なこと愚痴っちゃって、ごめんね。あたしとユウキ君の問題なのに、ミツル君に相談するなんて、ちょっと卑怯だった」
 理解できないような、理解できるような言葉だった。
 頼ってくれるのは単純に嬉しい。
 でも、もしもハルカさんとユウキ君が婚約者同士じゃなくて、ただのカレカノだったとしたら、僕はハルカさんの言動を捻じ曲げて解釈し、ユウキ君を――初めての男友達を裏切る行動をしなかっただろうか?
 おそらくハルカさんは、そこまで考えた訳じゃないだろうけど。
 「ハルカさん。ちょっとだけ、僕に任せる気ない?」
 「ミツル君……?」
 「いいこと、思いついちゃったんだ」
 にっこり笑って見せると、ハルカさんの愁眉が開く。
 「ありがとう! ミツル君」
 「ううん。役に立てて嬉しいよ」
 そう言葉を返しながら、僕はこっそりとため息を吐いた。

 僕は最初から真面目に本気だったのになぁ――

 
一言:ミツル君のハルカへの感情は、一言で言えば憧憬。

→ 愛して欲しいの?愛せばいいの? に続く
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ