お題で習作置き場

□太陽に愛された子供たち
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01.厚みのある本  (ルナマリア視点)

 検査に次ぐ検査で疲れ切っているだろうレイにお見舞いと称して会いに来たら、なぜかシンがレイの眠るベッド際に座り、厚みのある本を読んでいた。
 その姿が、あまりにシンらしくなくて、
 「……シン?」
 「ルナ、何でお前、ここに?」
 ぱたん、としおりも挟まず本を閉じたところを見ると、シンはその本をパラ見していただけらしい。
 「あいつ……明日っから、公式訪問でユーラシア連邦に行くはずだろ?」
 いまだ、カガリ様に対して含みのあるシンは、なかなか素直になれないようだ。
 まあ、ボディガードのあたしが、今ここにいるのはオカシイ、と思うのは当然のことだけど。
 「アスランが代わってくれたから、あたしはオーブで他の人の護衛なの」
 「ふん。公私混同してんじゃねぇーつの」
 「それってアスランのこと? それともあたしのこと?」
 「うっ! そ、それは……アスランに決まってるじゃないか!」
 やっと失言に気づいたみたいで、あわててそう言うシン。
 カガリ様とアスランの関係を考えれば、そう言いたくなる気持ちも分かるけど。
 レイの傍にいる、ってゆーのが、ZAFTの紅服だったあたしとあんたが、オーブに在住してる理由でしょうが!
 ……まったく。カガリ様のこととなると、単細胞がさらに加速するんだから。
 「で? あんたは何でここにいるの?」
 「何でって……」
 「さっき、キサカ一佐に会ったんだけど。なんか、シンのこと探してたわよ?」
 「えっ!? 俺、また何かやったっけ?」
 「今日提出の書類、まだ届いてないんだって怒ってた」
 「や、ヤッバ〜〜」
 「書類提出時間に一分でも遅れたら、給料カットだって言ってたし」
 軍人として礼儀がなってない、と日頃からシンをビシバシしごく鬼軍曹のようなキサカ一佐の言葉だから、シンもすっかりビビっている。
 一時はZAFTのエースだったのに、すっかり形無しだ。
 ZAFTは個々の戦力が物をいう組織だし、そこに甘やかされた感のあるシンだから、集団として和を重んじるオーブ軍に入った以上、苦労するのは仕方が無い。
 「それを早く言えよ!!」
 うわっ、もうこんな時間じゃないか! とあわてて立ち上がり、
 「レイ。もう行くな?」
 眠っているレイに一声かけ、あたしのほうには伝言の礼ひとつなく、部屋を飛び出していった。
 ふう、とため息をついたあたしは、シンの読んでいた本を取る。
 「これ……」
 カガリ様が、レイにあげた童話集だ。
 何でも、カガリ様のお父上、ウズミ・ナラ・アスハに、幼少の頃買ってもらった物で、たまたまエリカさんの息子に貸していたお陰で戦火を免れたらしい。
 まだほとんど動けないレイに、忙しい公務の合間を縫って、カガリ様はこの本をレイに読み聞かせている。
 レイの出生を考えると、そーゆーのに接することはなかっただろうし。
 『わたしとレイは、生まれたところがおんなじ、いわばキョウダイみたいなものだろ? だからこんなスキンシップもありだと思ったんだ』
 照れくさそうに笑った、カガリ様の顔が忘れられない。
 (きっと、それはシンもよね)
 この本を手に取り、読んでいたことがその証。
 少しずつ、シンの心の傷が癒えてきている証拠でもあるから、あたしはいいことだ、と思う。
 カガリ様の自然体の気遣いは、みんなを優しく癒してくれる。
 それが、今のあたしには誇らしいものだと感じた。


    01.厚みのある本  end
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