お題で習作置き場
□怪力少女なあなたに 5題
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3.逞しい二の腕(アプローチには腕相撲でお返事を)
「双子な僕らで5題 5.重ねた手のひら」参照。
「ねえ、カガリ」
今日も今日とて、屋上でのランチタイム。
何故だが神妙な顔で、フレイはわたしに声をかけてきた。
「……何だ?」
ちょうど咀嚼していたハンバーグを飲み込んでから、訊き返す。
「カガリってさ、中学校の時とかって、告白、どう断ってたの?」
「? 告白なんかされたことないぞ、わたしは」
「キラにつぶされてた、とかじゃなくて?」
「キラに? 何でキラ? というか、わたしとキラは、家の都合で中学校は別々だったからな。わたしが告白されたことないのとキラは、ぜんぜん関係ないぞ」
それにわたしは、ほとんど中学には通っていないしな。
――そこで悲しそうな顔するなよ、キラ。バレるぞ。
ほら、アスランが心配そうに見ているじゃないか。
「カガリが気づいてないだけじゃないの?」
「それってあり得るわね。――ねえ、カガリ。好きって言われたことがなくても、付き合ってください、は言われたことがあるんじゃない?」
「ああ。護身術道場の友達に、言われたことがあるぞ」
「……告白、されてんじゃないのよ」
「そんなんじゃないって! わたしが人より力持ちだから、ちょうどいい荷物持ちになるって思ったんだよ、きっと。だって――わたしだぞ?」
そう言ったら、なぜか不憫なものでも見るような目で見られ、ため息までつかれた。
何だか失礼だぞ、お前ら。
「で? 付き合ってくださいって言われて、どう答えていたの?」
ミリィが気を取り直し、そう訊いてくる。
「わたしと腕相撲やって勝ったら、付き合うって言った」
あの頃は最良の手だと思っていたから、そんな馬鹿なことが言えたんだ。
修行の一環、くらいにしか考えていなかったし。
こんなこと話したら、その逞しい二の腕なら負けなしだろうね、とか茶化して、みんな笑うんだろうなぁ、と思ったのに。
何だか考えていた反応とは、まったく違っていた。
ブーーーーーーーーーー!!
コーヒー牛乳を飲んでいたキラが、いきなり口中のものを噴き出した。
「汚いぞ、キラ!」
真正面にいたわたしに、かかりそうだったじゃないか!
「それで勝ったの負けたの付き合ったの!!???」
身を乗り出すキラは、鬼も裸足で逃げ出しそうなほど怖かった。
「わたしは負けなしだ! あ、いや、一人だけ、負けたな」
「では、その方とお付き合いされましたの?」
「お付き合いっていうか、まあ、そんな感じかな?」
「大丈夫だったか!? 変なことされなかったか!?」
キラの顔も怖かったけど、お前の顔も怖いぞ、アスラン。
「あ、アスラン? 変なことって……師範に失礼だぞ。それに付き合ったのは、子供護身術教室のお手伝いに借り出されて、こき使われたって意味だぞ」
「し、師範?」
「お手伝い、ですか?」
「そうさ。腕相撲で負けなしだったから、わたしはすっかり慢心していたらしくてな。それを危惧された師範が、とてもたくさんのハンディを負って勝負に挑んでくださって、わたしの慢心を完膚なきまでに叩きのめしてくださったんだ」
あの頃のわたしは、自分が強いって過信していたからな。
あれは、今思えばいい思い出だよなぁ。
しみじみと思うわたしを尻目に、みんなは安堵の息をついたり、やれやれと言いたげに胸を撫で下ろしていたり、何だかわたしが心配かけていたみたいな反応だ。
「姫さん。それってまだ有効なのか?」
「それ?」
「腕相撲で勝ったら、付き合ってくれるって奴」
その瞬間、ぱきっ、と空気がこわばった音を聞いた気がした。
みんな、わたしのことを心配してくれているんだなぁ。いい奴らだ。
「今はやっていないぞ。師範がお父様にそのことを話されたらしくてな、軽率な真似をするな! とお叱りを受けたんだ」
「へーそーかー。残念だったな」
わたしの答えにディアッカは笑い、アスランの肩をポン、と叩いた。
「? もしかしてアスランも、わたしに付き合って欲しい場所があるのか?」
そう訊いたら、はがゆくなるような微妙な表情を浮かべたけれど、それでもこくり、とアスランは頷いた。
――別にアスランなら、腕相撲なしでも付き合ってやるのに。
そう思ったけど、何故か口には出来なかった。
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