ポケスペ短編連作
□新前ジムリーダーの日々 1
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1.執務室のコーヒーブレイク
グリーンとブルーの話。
ジムリーダー職におおわらわなグリーンと、そんなグリーンの許へ通うブルーの息抜きをめぐる攻防。
いちよう恋人設定であります。
グリーンがジムリーダーに就任したトキワジムは、以前、悪名高きロケット団のボス・サカキが君臨していた。
それはすなわち、ジムの運営が事実上停止していたことを意味している。
さらに、その後に続いた事件のためジョウト地方を行きめぐり、ジムリーダーとして様々な活動を余儀なくされて。
「……書類が減らない」
新前ジムリーダー・グリーンは、トキワジム運営を軌道に乗せるため、膨大な書類と格闘する羽目になってしまったのだ。
(こんなことなら、……いや、止めておこう)
四天王・カンナのよって凍らされた手足の痺れのために、能力的には申し分ないのに、レッドはなりたくてもトキワのジムリーダーになれなかった。
そんなレッドの無念を思えば、些少の忙しさなど何でもないことだ。
苦々しい思いを心の中で握りつぶそうとしたグリーンに、
「だぁから、アタシが手伝」
「結構だ」
書類を脇に寄せて勝手に机に座る暇そうなブルーの姿が、グリーンの握りつぶし損ねた苦々しい思いを苛立ちに変えていく。
ここ数日、同じことを言って結局邪魔しかしなかったブルー。
だから、今日も同じだろう、とグリーンが考えるのは当然のことで。
素っ気ないグリーンの言葉にブルーは頬を膨らませ、
「けーち。いいもん、いいもん。グリーンが相手してくれないんなら、オーキド博士の所に」
そう言い掛けると、
「おじいちゃんの邪魔も止めてもらおう」
間髪入れず切り替えされ、冷ややかな一瞥をくれたっきり、グリーンは欠片なりとも相手をしてくれない。
大仰にため息をついてみせても、彼の筆(て)は止まらない。
仕方ないなぁ、と下手なちょっかい出すのは止め、ブルーはグリーンの仕事する姿を見ながら、
(眉間にしわ寄せて。――跡がついちゃったら勿体無いわ)
とか、
(まつげながーーい。マッチ棒、何本乗るかしら?)
ブルーは詮無いことを考えていたが。
「トキワのジムリーダー、出て来い!! バッジを賭けて勝負だ!!」
静かな部屋に飛び込む声が、ブルーのふわふわと漂う思考をシャボン玉のように弾き割る。
その声に、グリーンはため息をつき立ち上がる。が。
しかしブルーは、それを目線でさえぎり、机の上から降りた。
「……ブルー?」
「いいから仕事してて。アタシが行って来るわ」
「トレーナーの挑戦を受けるのも、ジムリーダーの仕事だ」
「でもグリーン、顔色悪いもの。大丈夫。あなたの顔に泥塗るようなバトル、して来ないわよ」
「それは心配していない」
「うん。さっさと片付けてくるから、終わったらお茶にしましょう」
軽く手を振り、さっさと出て行くブルーの姿を見送って。
「……仕方ない」
思惑に乗るのは嫌だが休憩にするか、と思いながら。
グリーンは勝って帰ってくるブルーを迎えるために、コーヒーを入れようと給湯室へ足を向けた。
→続く