ポケスペ短編連作
□新前ジムリーダーの日々 番外2
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番外2.木苺水とシスターコンプレックス。
ジョウト三人組の話。
ブルーの召集を受けたジョウトの三人は、交通手段とルートの確認のためクリスタルの家に集まる。
シルバーが何故グリーンを嫌い、姉の恋人と認めないのか。
クリスタルの家の客間。
テーブルには船の時刻表や地図が置かれ、いかにも旅行を感じさせるアイテムが揃っていた。
そこにはふたりの少年がいて、ひとりは真剣に地図を見、もうひとりは嫌々、という感情をあらわにして、手持ち無沙汰に時刻表をめくっていた。
「お待たせ」
と、ひとりの少女――家主のクリスタルが入ってくる。
とりあえずはお客様、ということで、もてなしとして紅玉色のジュースの入ったグラスを盆にのせ、部屋へ戻ってきたのだ。
「お、うっまそうじゃん!」
ルート選択を早々に放棄し、手持ち無沙汰に時刻表をめくっていた少年――ゴールドは時刻表を放り出し、早速、とばかりにグラスへ手を伸ばして、
「キレーな色だな。コレ、何のジュースだ?」
日に翳すように、透かし見る。
「ラズベリー・コーデュアル――木苺水よ」
「きいちごみず〜? 何だ、そりゃ???」
「まずラズベリーと白ブドウ酢を――と言っても、ゴールドには分かんないか。とにかく飲んでみて。ほら、シルバーも!」
そう言ってクリスタルは、地図を見ていたシルバーに無理やりグラスを持たせ、
「おお! 美味い!!」
「当たり前でしょ」
一口飲んで、そのあまりの美味しさに思わず全部飲み干したゴールドの言葉に、
にっこり笑って見せる。
「にしても。オレはてっきりオマエのこと、お堅い委員長だって思ってたのに、結構さばけてんじゃん」
「はぁ??? どういうこと? それって?」
「だってさ。酒が入ってる飲みもん出すなんて、オレでも出来ねーって」
「お酒なんて入ってないわよ」
何言ってるの、と言いたげなクリスタルに、ゴールドは怪訝な顔をした。
「だってオマエさっき、白ブドウ酒って――」
「違うわよ! ブドウ酒じゃなくて、ブドウ酢! 白ブドウから作ったお酢!」
そんな二人のやり取りをよそに、シルバーはクリスタルの勧めどおりにグラスの中身を飲んでみて、目を瞠った。
「美味い……」
ぽつり、と呟いたシルバーに、ゴールドとクリスタルは驚いて、マジマジとその顔を見やる。
「姉さんが、好きそうな味だ」
「……ほんっと、オマエってシスコンだっ」
うんざりとして言いかけたゴールドの声と、がす、という衝撃音が重なった。
「〜〜〜〜〜〜っ」
シルバーが物言わずぶつけた船の時刻表が顔面直撃し、顔を押さえて呻きまくるゴールドをそのままに、
「だったら、ブルーさんに持っていく?」
「……いいのか?」
「もちろん。今持ってくるわ」
すく、と身軽く立ち上がったクリスタルと、遠慮が先立つシルバー。
そんな二人の様子に、
「オマエら〜〜〜! こんなに痛がってるオレをマル無視かよ!」
いきり立ったゴールド。
「ゴールドもおかわりいる?」
そんなゴールドの言葉を文字どおり無視したクリスタルが、すでに飲み終わったシルバーのグラスを振って見せると、
「……いる」
「はいはい。ちょっと待っててね」
まだ怒っているんだぞ、と言いたげにそっぽを向いたままで、それでも欲しいと言ったゴールドに含み笑い、彼のグラスも手に取ったクリスタルに、
「ミヤゲも!」
「分かっているわよ」
くすくす笑いながらドアまで歩いてゆき、ああ、そうそう、と振り返って、
「二人とも。ちゃんと仲直りしときなさいよ」
まるで母親が兄弟ゲンカを諌めるように、そう言った。
→続く