ポケスペ短編連作

□新前ジムリーダーの日々 7
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7.夜半のお供はカモミールの苦い味。
 グリーンとブルーとシルバーとスイの話。
 グリーンとスイを二人きりにしておけないブルーは、グリーンの家に泊まり込むことを決め、姉を守るためシルバーもともに行くことになった。

 きっちり夜の七時。
 基本的に几帳面で神経質なグリーンらしく、一分も違(たが)うことなく施錠を始め、自分の動向を見るためか、ついて回る三対の視線に苦い表情を浮かべた。
 本来なら施錠が終わると、資料室で色々と個人的に調べ物をし、適当に夕食と夜食の中間みたいな食事をして仮眠室で休息を取る、というのがジム開館日におけるいつものパターンなのだが。
 さすがに、この三人を放って置いてそうするのはマズイだろう。
 「……メシは、どうする心算だ?」
 「グリーンの家の食料ストックはどうなっているの?」
 質問に質問で返すブルーの非常識さに、グリーンは眉根を寄せたが、
 「冷蔵庫は、ほとんど空だろうな。日持ちする野菜がいくつかと、調味料くらいしかないはずだ」
 「それで、どうやって自炊してきたのよ?」
 当たり前に返され、ブルーは疑問に眉根を寄せた。
 図らずも二人が同じ表情になっていて、うかがい見ていたシルバーとスイは内心面白くない。
 さすがにシルバーは自分の感情を表に出すような真似はしないが、スイはその感情のままグリーンの裾を引っ張り、抗議の意を示して。
 目敏いブルーは、目の奥に剣呑な光を宿した。
 「いつもは近くの食料品店に届けてもらって、ここで作っていたからな。家で食事するのは休日だけだ」
 グリーンはちらり、と服を引っ張るスイを一瞥し、答える。
 「じゃあ晩御飯、ここで食べてく?」
 「あんまりスイを怯えさせたくないし、外食はしないほうがいいだろう」
 ふむ、と確認するように自分の言葉に頷いて、グリーンは心持ち優しい手つきでスイの手からジャケットの裾を取り戻し、
 「だから、今日は俺が作る」
 アッサリと宣言する。
 「……アンタが?」
 かなりの沈黙が流れた後、かろうじてそう言えたのはシルバー。
 「悪いか?」
 「悪くはないけど、食べられるのか?」
 「口に合うかは保障しないがな」
 疑問に疑問が返る会話だが、先ほどのブルーと違ってきちんと返事も返しているので、二人の間に漂う冷ややかさは同じ理由からではないようだ。
 そのままシルバーから視線を逸らし、スイの頭を一撫でして、
 「おとなしく待ってろ」
 優しく命令する、グリーン。
 目を細め、彼の手を受け入れているスイの姿とあいまって、まるでトレーナーとポケモンのような関係とも見て取れる。
 実際グリーンにとってスイは、手持ちのポケモンと同じく保護対象なのだろう。
 さすが『育てる者』。
 自分の手を必要とするものには、誰よりも優しい。


→続く
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