ポケスペ短編連作

□新前ジムリーダーの日々 8
1ページ/7ページ

8.スイとトキワの森とアイスティー。
 主人公ズとスイの話。


 朝の肌寒い清涼な空気の中、グリーンは日課であるトキワの森の見回りとトレーニングをこなすため、いつもよりさらに早く起き出した。
 グリーンは、自分の都合に三人をつき合わせる心算などなかったが。
 家主のいない家で勝手にふるまえるほど図太くはないし、スイがグリーンと離れたがらないこともあり、必然的に三人ともがついてゆくこととなった。
 そして――
 「ねえ、グリーン。眠いんだけど」
 「だから寝ていろと言ったんだ」
 マサラタウンを出てからずっと、ブルーは目をこすってはそう言い続け、律儀にグリーンは同じ言葉を返す。
 その様子を傍から見ていて、シルバーはようやく気づいた。
 ブルーがこうやって何度も声をかけるのは、下手ながらもグリーンに甘えているのであり、グリーンはそうしたブルーを邪険にしても無視はしない。
 グリーンはグリーンなりに、ブルーのことを思っているのだ。
 姉に相応しくない奴、という悪辣な評価を、少しだけ修正してやってもいい気がする程度には。
 (……ばかっぷる)
 以前、目の前でキスを見せつけたカップルを見て、嫌そうに呟いたゴールドの言葉。
 たぶん、この二人にも当てはまるのだろうと思いながら、視線をずらして。
 グリーンの裾を捉えたまま、寂しげに顔を伏せるスイの姿を見つめる。
 彼女の、グリーン以外にはすがるものがない、と言わんばかりの悲しみの姿は、姉に関しては認めてやってもいい、という思いさえ裏切りのように感じた。
 (裏切り……? 何にだ???)
 自分の思考ながら掴めない言葉に、シルバーは黙って視線を前方に投げる。
 ただ分かるのは、どう転んでもグリーンを好きにはなれない、という確信だけだった。
 そんな調子でトキワシティに着き、そのままジムに向かわず街を突っ切って。
 スイは突然、グリーンの服の裾を引っ張った。
 後ろへ引かれる軽い抵抗に足を止めたグリーンを訝(いぶか)り、ブルーとシルバーの足も必然的に止まる。
 トキワの森の入り口。
 うっそうと茂る木々が、まるですべてのものを飲み込むかのような陰影を見せ、普段ここを渡るトレーナーでさえ、一瞬の躊躇を感じずにはいられない。
 それだけロケット団の犯した愚行が、いまだトキワの森に爪痕を残しているのだ。
 怪訝に思ってスイの顔を覗く、三対の目が捉えたのは。
 青ざめた顔、震える手、俯いた視線。
 「――怖いのか? トキワの森が」
 スイの様子から見受けるのは、強い恐怖の感情。
 『たぶんトキワの森にたどり着くまでの間に、かなり怖い思いをしたんじゃないかなァ』
 初見の時のドクターの声が、グリーンの脳裏によみがえる。
 精神的な記憶の混乱と一時的な失語を起こすほどの、純粋な恐怖を味わったのがこのトキワの森ならば。


→続く
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ