ポケスペ短編連作
□新前ジムリーダーの日々 8
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8.スイとトキワの森とアイスティー。
主人公ズとスイの話。
朝の肌寒い清涼な空気の中、グリーンは日課であるトキワの森の見回りとトレーニングをこなすため、いつもよりさらに早く起き出した。
グリーンは、自分の都合に三人をつき合わせる心算などなかったが。
家主のいない家で勝手にふるまえるほど図太くはないし、スイがグリーンと離れたがらないこともあり、必然的に三人ともがついてゆくこととなった。
そして――
「ねえ、グリーン。眠いんだけど」
「だから寝ていろと言ったんだ」
マサラタウンを出てからずっと、ブルーは目をこすってはそう言い続け、律儀にグリーンは同じ言葉を返す。
その様子を傍から見ていて、シルバーはようやく気づいた。
ブルーがこうやって何度も声をかけるのは、下手ながらもグリーンに甘えているのであり、グリーンはそうしたブルーを邪険にしても無視はしない。
グリーンはグリーンなりに、ブルーのことを思っているのだ。
姉に相応しくない奴、という悪辣な評価を、少しだけ修正してやってもいい気がする程度には。
(……ばかっぷる)
以前、目の前でキスを見せつけたカップルを見て、嫌そうに呟いたゴールドの言葉。
たぶん、この二人にも当てはまるのだろうと思いながら、視線をずらして。
グリーンの裾を捉えたまま、寂しげに顔を伏せるスイの姿を見つめる。
彼女の、グリーン以外にはすがるものがない、と言わんばかりの悲しみの姿は、姉に関しては認めてやってもいい、という思いさえ裏切りのように感じた。
(裏切り……? 何にだ???)
自分の思考ながら掴めない言葉に、シルバーは黙って視線を前方に投げる。
ただ分かるのは、どう転んでもグリーンを好きにはなれない、という確信だけだった。
そんな調子でトキワシティに着き、そのままジムに向かわず街を突っ切って。
スイは突然、グリーンの服の裾を引っ張った。
後ろへ引かれる軽い抵抗に足を止めたグリーンを訝(いぶか)り、ブルーとシルバーの足も必然的に止まる。
トキワの森の入り口。
うっそうと茂る木々が、まるですべてのものを飲み込むかのような陰影を見せ、普段ここを渡るトレーナーでさえ、一瞬の躊躇を感じずにはいられない。
それだけロケット団の犯した愚行が、いまだトキワの森に爪痕を残しているのだ。
怪訝に思ってスイの顔を覗く、三対の目が捉えたのは。
青ざめた顔、震える手、俯いた視線。
「――怖いのか? トキワの森が」
スイの様子から見受けるのは、強い恐怖の感情。
『たぶんトキワの森にたどり着くまでの間に、かなり怖い思いをしたんじゃないかなァ』
初見の時のドクターの声が、グリーンの脳裏によみがえる。
精神的な記憶の混乱と一時的な失語を起こすほどの、純粋な恐怖を味わったのがこのトキワの森ならば。
→続く