ポケスペ短編連作
□新前ジムリーダーの日々13
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13.カフェ・ロマーノは恋の味。
グリーンとシルバーとスイの話。
グリーンを嫌っているシルバーが、それでもトキワジムにいる理由。
いつまでもみんなに仕事を手伝わせていては、いなくなった時に俺が困る。
それに俺たちが固まっていると、面倒も多いからな。
一人で行動というのは、妙な連中がいる分、勧められないが――ここに入り浸りされるのも厄介だ。
グリーンの放った言葉は、あまりに的を射過ぎていて。
トキワジムに来てから、ずっと、巡回やジム戦など、書類の決済以外は何かと手伝っていた面々は、唐突にトキワジムから放り出される形になった。
「アタシとクリスは、タマムシシティで買い物三昧ってことでv」
「よろしくお願いします、ブルーさん」
「任せといて!」
どん、と胸を叩いて、クリスタルの期待に応えるブルー。
「あたしとルビーは、マサキゆー人ばとこ行くと」
「まさかカガリさんの言っていた『ナナミ』さんが、グリーンさんのお姉さんとは思いませんでした」
ホクホク顔のルビーに、見守るような視線を向けるサファイア。
コンテスト馬鹿、と呼ばれるルビーの意を汲んで、サファイアは行き場所をマサキの研究所にすることに同意したようだ。
そうでなければ、サファイアはジム周りを始めていただろう。
「じゃあ俺は、知り合いのトコに行ってくるかな」
「それってもしかして、カノジョんトコっすか?」
「違う違う。男だよ、友達」
勘ぐりの視線に、手をパタパタ振って否定したレッドは、まったく気負いのない口調で言い切る。
そこには嘘が感じられなくて、
「何よ、つまんないわね」
全員の心の代弁をしたブルーだった。
一人で行動してもレッドなら大丈夫、という意味では信頼されている証、といえなくもない反応ではある。
信頼されている分、大切にされているかは微妙なところではあるが。
「ん〜、オレはどーしよっかなぁ」
「行きたいところ、思い浮かばないです」
さして行きたいところの思いつかない、ゴールドとイエロー。
「じゃあ、アタシたちと一緒にショッピングする?」
「ボクは買いたい物、特にないですし。それに人ごみは苦手ですから、すみません」
「オレはついて行きたいけど、金欠なんですよね〜」
ブルーの厚意の言葉に対し、それぞれの理由から断るイエローとゴールドに、仕方ないわね、と笑う。
「なあなあ、シルバーはどうすんだ?」
「オレはここに残る」
「ここって……トキワジムに?」
怪訝な顔のクリスタルとゴールドに、シルバーは頷く。
頷くだけで、それ以上答えてくれそうにないことは、シルバーの顔を見れば分かる。
そして彼の無表情は、容易にその心情を語りはしない。
「そう。ならスイのこと、頼むわね、シルバー」
しかし、姉の目はごまかせない。
というよりも、シルバーの想い人がスイである、と知っている以上、彼女を守りたいがために――いや、彼女の傍にいたいために残るのだと、察するのはたやすい。
さらり、と言ってのけた姉の目は、この上なく優しかったから。
「……うん」
素をさらして頷いてしまい、ゴールド、クリスタルの驚きの伴った視線を浴びてしまうシルバー。
「なっ、何だよ?」
「い、いや……」
「何でもないよ」
さり気なくシルバーから視線を逸らしながら、ゴールドとクリスタルはそう言った。
「? そうか?」
怪訝な声だったが、それ以上追求しないシルバーの様子に、二人して安堵の息をつく。
しかし、そんな緊迫(?)した光景には頓着せず、
「スイ」
「はい、グリーンさん」
「悪いんだが、診療所に行って、頼んである資料をもらってきてくれないか?」
スイに仕事を言いつけたグリーンは、ちろり、とシルバーへと視線を向けた。
それは、ついて行ってやれ、という威圧に満ちたものだった。
もちろんそんな威圧に怯むシルバーではないが、実質スイの保護者であるグリーンに指名されるのは、割り切れないものを感じながらも嬉しい。
「スイ。行こう」
「! はいっ。ありがとうございます、シルバーさん。――ではグリーンさん、みなさん、行ってきます」
「ついでに検診してもらってこい。医師(せんせい)には連絡しとく」
「分かりました」
ぺこり、と頭を下げ、スイはシルバーに伴われて執務室を出て行った。
→続く