ポケスペ短編連作
□新前ジムリーダーの日々 番外5
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番外5.知らされる情報は青汁のように苦味を帯びて
レッドとカスミとオリキャラの話。
カスミへ無自覚な想いを抱き始めるレッドと、カスミを想うレッドの旧友。
確かに。
レッドは「男の友達の」許へ行くために、ここに来た。
それは間違いない。
だけれども、それ以外の理由がなかったのかと問われれば、イエス、とは言えなかった。
だから、ゴールドに訊かれた時、内心ハラハラし通しだったのだが、バレずにすんで良かったと今、安堵しているところだった。
(もうすぐ、着く)
――ハナダシティに。
「あり得ねー。レッドがおれンとこ来るなんてさ」
ある一戸建ての家屋の玄関先で、第一声でそんな反応を返したのは、レッドが会いに来た当人だ。
レッドがポケモンの旅に出る少し前、家の都合で他の土地へ越してゆき、つい最近、カントーへ戻ってきてハナダシティへ定住したこの旧友は、グリーンを筆頭とする仲間とは別に意味で、レッドのことをよく知っている。
「しっつれーだなぁ。カントーに戻ってきたって聞いたから、会いに来てやったのにさ。いきなりダメ出しかよー」
「やだなぁ。連絡しなかったこと怒ってる? 男の嫉妬は醜いぞー?」
「ちがーう! そうじゃなくってっ」
「悪かったって。つーても、お前があちこちフラフラしてるのもいけないんだぞ」
「それはそうだけど……って! 違うって言ってんだろ!? 人の話を聞けー!!」
「分かった分かった。で? ホントは何が目的なんだ?」
さらり、と旧友――タイチに会話の矛先を変えられて、絶句したレッドはすっかり形無しだ。
どちらかというとイニシアチブを取りがちなレッドにしては、珍しい光景でもある。
「……ホントも何も。俺はお前に、会いに来たんだよ」
「ふうん。ま、深くは追求しないけどな」
肩を軽く挙げてみせ、タイチはアッサリと話を流す。
「おれ、今からハナダジムに行く心算なんだけど。お前も来る? 話してる間は、席外してもらわなきゃ、だけど」
「え? ハナダジム?」
「聞いてない? 今、おれ、親父の仕事を手伝ってるんだよ。で、今回はハナダジムのジムリーダーへの言付けとお届け物を頼まれてんだ」
ちなみに、タイチの父親はポケモンリーグ協会の調査官だ。
それは、ポケモンリーグ協会の指示に従い、ジムリーダーが適切にジムの運営や街の秩序に貢献しているか確認するため、地方を巡って調査する仕事であり、トキワの前ジムリーダーの不正疑惑から強化された部門である。
「ハナダジムのジムリーダーって……カスミに?」
「あれ? レッド、カスミさんと知り合いか?」
ハナダジムのジムリーダーであり、この街の名士の娘でもあるカスミを呼び捨てにしたレッドに、タイチは怪訝な顔で訊き返す。
「あ、うん……まあな」
まさか彼女は俺に告白した人間です、とは言えなくて。
うやむやにしたくて、言葉を濁す。
「そっか。レッドはポケモントレーナーだもんなぁ。――やっぱりカスミさんに近づくには、トレーナーになったほうがいいのかなー?」
靴を履きながら、そう言葉を続けるタイチは、レッドが顔をこわばらせたのに気づかない。
「タイチ……もしかして」
「ん? 何だよ?」
「カスミのこと、好きなのか?」
ポロリ、と洩れた問いに、スニーカーの紐を結んでいた手を止めて、タイチは顔を上げる。
「……ほんっと、めずらしいことばっかだなー。お前が人の恋愛事情にクチを出すなんてさ」
タイチの知っているレッドは、モテたいモテたいとクチに出す男の健全さは持っていたし、典型的な女の子スキーだったが、夢やロマンを追い求める者らしく恋愛の機微に疎いところがあった。
それが、タイチとの会話から、彼のカスミへの想いを勘ぐるまでになるとは。
「時間の経過って偉大だねー」
しみじみと頷くタイチ。
「悪かったなっ!」
「いやいやいや。ホッとしたよ、ある意味。レッドも成長したんだなぁ、って思ってさ」
「子供の成長、見守る母親みたいに言うな!」
がうっ、と噛みつくように叫ぶレッドに、タイチは腹を抱えて笑った。
→続く