文章置き場
□キリ番リクエスト掌編
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22222hit ホワイトさま ワタイエ。雰囲気的に、甘い感じで。
おんなじ欲求
人での届かない、山脈のひらけた場所にて。
「……こんなところまで来て、お前は楽しいのか?」
「楽しいですよ? ワタルさんがいるし」
ジョウトの騒ぎが収束し、シルバーに聞いたらしい俺の居場所にイエローが訪れたその時から、なぜかどこへ移動してもイエローは俺の居場所を見つける。
そのあまりの命中ぶりに、発信機でもつけられているのでは? と探したことも何度かあるくらいだ。
「今日は、ブルーさんに教えてもらってケーキ作ってきたんです」
お前たちにもあるよ、と、勝手に人のポケモンを呼び寄せ、近頃人気のあるというポケモンフーズを与えている。
「イエロー……」
「あ! あげちゃいけなかったですか?」
「いや。そうではないが」
「なら良かった〜」
餌付けされてか、すっかりなれてしまっている俺のポケモンたち。
竜族のポケモンは人馴れし難いはずだが、ポケモンの心を読むことの出来るイエローにとって、それはあまり障害にはなり得ない。
しかも、それなりに俺がイエローを受け入れているのだから、ポケモンたちの反応も仕方が無い。
ため息が出る。
人に絶望していたはずの俺が、すっかりイエローに飼い慣らされているようで。
そんなことを考えていると。
すっかり俺のポケモンたちを独り占めしているイエローに、イエローのポケモンたちは暇をもてあますようで、そろそろと俺に近づいてくる。
ぱたぱたぱた、とまず近づいてきたのはバタフリー。
紋様が鮮やかなところを見ると、バタフリーの心を読むまでもなく、イエローに愛情をきっちり与えられているのだろう。
それが見て取れて、思わず口元に笑みが浮かぶ。
と、とたんに他のポケモンたちも、俺の許へと駆け寄ってきた。
「すっかりなついちゃいましたね〜」
にこにこと笑って来るイエローに、イタズラを見つけられた子供の気分になる。
文句のひとつも言いたいが、膝にはピカチューが乗っかり、肩にはラッタがよじ登ろうと苦戦していて、ドードリオとオムスターとゴローンが俺に引っ付いてくる状況では、説得力がない。
本気で嫌なら、さっさと追い散らすことをイエローは分かっているからだ。
代わりに、
「カイリューたちは?」
と、聞くと、
「『邪魔をしたくないから、少し飛んできます』って」
茶目っ気を帯びた笑顔で、イエローはそう言う。
「『邪魔』?」
「そこまで気を遣わなくてもいいのに」
そう言い、微笑んだ顔はイエローがたまに見せる女の子の表情で、そのつど手を伸ばしたくなる自分に戸惑いを禁じ得ない。
おそらくカイリューたちは、そんな俺に気づいているのだろう。
妙な緊張に、膝に乗ったままのピカチューを撫でる。
「そういえば、何で俺の居場所が分かるんだ?」
これは、一度聞いておきたかったことだ。
緊張を払うため、だけではなく。
「ん〜……。簡単に言えば、ちょっとした勘と条件の合致ですかね」
「?」
「つまりですね。ワタルさんがいそうな場所というのは、人の手の届かない静かな広い場所で、しかも見通しの利く場所付近ですから、そのような場所をピックアップして、あとはポケモンたちに訊けばある程度分かりますよ」
さらり、と言ってのけるイエロー。
だが、それは言うほど楽な作業ではない、と思うのだが。
何だかんだと言って、この穏やかな時間はイエロー以外とは持てないだろうし、持ちたくもない。
だから、彼女の行動はありがたい、の一言で集約されてしまうのだが。
「何でそんな手間隙を掛けてまで俺のところへ来るんだ? って顔してますよ、ワタルさん」
その一言に、知りたかったのはイエローの動機だったのだと、納得した。
「そうだな。――俺は、それが知りたい」
「それはワタルさんが考えてください」
「そんなことを言うと、俺の都合の良いように考えるぞ?」
イエローの無邪気さに呆れる。
俺の欲求がどこにあるのかを分かっていたら、そんな不用意なこと、とてもじゃないが言えないはずだろうに。
そう思うのに、そこにつけ込みたい自分がいる。
「そうしてください」
「……そうする」
俺の伸ばした手のひらに、イエローの手がふわり、と乗った。
その瞬間、気づく。
「俺は、こうしたかったんだな」
「ボクも、こうしたかったんですよ」
触れた手のひらから感じるのは、心に抱く、おんなじ欲求。
あまり甘くなりませんでした。