文章置き場
□キリ番リクエスト掌編
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プライドは恋の最終防衛ライン
最初は、従姉妹のイエローに話を聞いて、ちょっと興味を持っただけだった。
『ボクに、ポケモンを捕まえる手ほどきをしてくれて、トキワのジムリーダーになってくれるって約束までくれたレッドさん』
『ボクに、ポケモンの扱い方とトレーナーの心得を教えてくれたグリーンさん』
強豪の揃うカントー地方で、強い、と有名な二人の少年。
その時は、イエローがベタ褒めに褒めるその二人の腕前を確かめてやりたい、と思っただけだった。
ホウエンでリーグ優勝したこともあるこの俺に、彼らは一体どこまで善戦してくれるのかな、と驕(おご)った気持ちさえ持っていた。
だから、イエローのところへ遊びに行く、という名目でカントーに来たのだ。
強いと言われた少年に……ポケモンリーグ優勝者レッドという少年に勝つために。
なのにどうしてだか、トキワのジムリーダーになっていたのはレッドという少年ではなく、グリーンという少年で。
正直、つまんないな、と思った。
たかだか、ポケモンリーグの準優勝者。
年は俺より1つ2つ上のようだけど、おんなじ年の頃にリーグ準優勝しか出来なかったこの少年が、俺に勝てるなんてはなっから思いもしなかった。
まさか、俺が負けるだなんて、夢にも思わなかった。
正確で的確で、でも機械的ではないグリーンさんの戦略とポケモンへの信頼、戦いに際する度胸、そして何より、きらきら輝く緑の目に、俺、レオーネは心酔し――――恋をした。
「レオーネ、気をつけてね」
「分かってるってば。……ったく。イエローは心配性だなぁ。俺に勝てるヒトなんて、グリーンさんくらいだよ」
まるでお人形のように整った顔に似合わず、さばさばと言ってのけるレオーネ。
それは、下宿先のイエロー宅前で、毎日繰り返されるいつものやり取り。
グリーンにトレーナーとしても女としても惚れ込んで、押しかけ女房ならぬ押しかけ弟子になる約束を取り付けたレオーネは、両親を説き伏せポケモン留学という形でこのカントーの地に移住した。
そんなレオーネの下宿先およびお目付け役に抜擢されたのが、イエローだ。
同い年の従姉妹の、いわゆる身元引受人になってしまったイエローが、だから心配性になるのも無理はない。
ましてや、同性であるイエローの目から見ても、レオーネは美少女なのだから。
「それでも! レオーネは女の子なんだから、」
「おっと。もう時間だ、ジムに行かなきゃ」
時計は8時ちょっと前をさしている。
「あ、レオーネっ」
「いってきまーす!」
自慢の青い髪のポニーテールをひるがえし、レオーネは走っていってしまった。
「もう! レオーネったら。少しはボクの言葉も聞きなよー!」
今度はグリーンさんに注意してもらうからね! と、今日も言えずまま逃げられたイエローは、地団太を踏んで悔しがった。
「ちょいまちな」
唐突に声をかけられ、レオーネは眉を寄せた。
トキワジムまで後200m。
あまり人通りの激しい道ではないからこそ選んだのに、そこに障害物が立ちふさがり、レオーネの機嫌は見る見る下降して行く。
「……何か、用か?」
ふざけた用事なら容赦はしない、とばかりに睨めつけるレオーネに、障害物――3人の男がビビッて思わず後退りをする。
見た目は磁器人形(ビスクドール)を思わせる美少女なのに、乱暴な言い草。
青くつややかなポニーテールと、ちょいと小柄だが、いや小柄だからこそ、大きな目が強い印象を与え、見た者を強く惹きつける。
そんな美少女が眼光鋭く睨みつける様は、言葉にし難い迫力がある。
レオーネからすれば、グリーンさん以外を惹きつける必要はなし、なのだから、誰が自分をどう思おうと関係ないのだが。
「グリーンさんを待たせているんだ。無駄な時間を取らせるな」
ぞんざいなレオーネの口調に、かちん、ときた男が3人。
捨て台詞のごとく、口々に吐き出されるそいつらの言葉に――レオーネはキレた。
→続く