文章置き場

□キリ番リクエスト掌編
15ページ/44ページ

プライドは恋の最終防衛ライン


 最初は、従姉妹のイエローに話を聞いて、ちょっと興味を持っただけだった。

 『ボクに、ポケモンを捕まえる手ほどきをしてくれて、トキワのジムリーダーになってくれるって約束までくれたレッドさん』
 『ボクに、ポケモンの扱い方とトレーナーの心得を教えてくれたグリーンさん』

 強豪の揃うカントー地方で、強い、と有名な二人の少年。
 その時は、イエローがベタ褒めに褒めるその二人の腕前を確かめてやりたい、と思っただけだった。
 ホウエンでリーグ優勝したこともあるこの俺に、彼らは一体どこまで善戦してくれるのかな、と驕(おご)った気持ちさえ持っていた。

 だから、イエローのところへ遊びに行く、という名目でカントーに来たのだ。
 強いと言われた少年に……ポケモンリーグ優勝者レッドという少年に勝つために。
 なのにどうしてだか、トキワのジムリーダーになっていたのはレッドという少年ではなく、グリーンという少年で。
 正直、つまんないな、と思った。
 たかだか、ポケモンリーグの準優勝者。
 年は俺より1つ2つ上のようだけど、おんなじ年の頃にリーグ準優勝しか出来なかったこの少年が、俺に勝てるなんてはなっから思いもしなかった。

 まさか、俺が負けるだなんて、夢にも思わなかった。

 正確で的確で、でも機械的ではないグリーンさんの戦略とポケモンへの信頼、戦いに際する度胸、そして何より、きらきら輝く緑の目に、俺、レオーネは心酔し――――恋をした。



 「レオーネ、気をつけてね」
 「分かってるってば。……ったく。イエローは心配性だなぁ。俺に勝てるヒトなんて、グリーンさんくらいだよ」
 まるでお人形のように整った顔に似合わず、さばさばと言ってのけるレオーネ。
 それは、下宿先のイエロー宅前で、毎日繰り返されるいつものやり取り。
 グリーンにトレーナーとしても女としても惚れ込んで、押しかけ女房ならぬ押しかけ弟子になる約束を取り付けたレオーネは、両親を説き伏せポケモン留学という形でこのカントーの地に移住した。
 そんなレオーネの下宿先およびお目付け役に抜擢されたのが、イエローだ。
 同い年の従姉妹の、いわゆる身元引受人になってしまったイエローが、だから心配性になるのも無理はない。
 ましてや、同性であるイエローの目から見ても、レオーネは美少女なのだから。
 「それでも! レオーネは女の子なんだから、」
 「おっと。もう時間だ、ジムに行かなきゃ」
 時計は8時ちょっと前をさしている。
 「あ、レオーネっ」
 「いってきまーす!」
 自慢の青い髪のポニーテールをひるがえし、レオーネは走っていってしまった。
 「もう! レオーネったら。少しはボクの言葉も聞きなよー!」
 今度はグリーンさんに注意してもらうからね! と、今日も言えずまま逃げられたイエローは、地団太を踏んで悔しがった。


 「ちょいまちな」
 唐突に声をかけられ、レオーネは眉を寄せた。
 トキワジムまで後200m。
 あまり人通りの激しい道ではないからこそ選んだのに、そこに障害物が立ちふさがり、レオーネの機嫌は見る見る下降して行く。
 「……何か、用か?」
 ふざけた用事なら容赦はしない、とばかりに睨めつけるレオーネに、障害物――3人の男がビビッて思わず後退りをする。
 見た目は磁器人形(ビスクドール)を思わせる美少女なのに、乱暴な言い草。
 青くつややかなポニーテールと、ちょいと小柄だが、いや小柄だからこそ、大きな目が強い印象を与え、見た者を強く惹きつける。
 そんな美少女が眼光鋭く睨みつける様は、言葉にし難い迫力がある。
 レオーネからすれば、グリーンさん以外を惹きつける必要はなし、なのだから、誰が自分をどう思おうと関係ないのだが。
 「グリーンさんを待たせているんだ。無駄な時間を取らせるな」
 ぞんざいなレオーネの口調に、かちん、ときた男が3人。
 捨て台詞のごとく、口々に吐き出されるそいつらの言葉に――レオーネはキレた。



→続く
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ