ポケスペ短編連作
□新前ジムリーダーの日々 番外1
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また、グリーンはため息をついた。
ブルーは、そんなグリーンをソファに座り見ながら、つられるようにつきそうになったため息を飲み込んだ。
(疲れてるみたいね……)
いつものようにジムへ通って、溜まりに溜まった書類の決裁をし、挑戦者たちと戦い、トキワシティ周辺の見回りをし、子供たちにポケモンのことを教え、トレーナーを育成し、街を守る。
通常なら、ジムリーダーを慕うトレーナーが集い、彼らが仕事を分担して回っていくジムリーダー職。
だが、前リーダーの悪名のためか、ジムリーダーとしてはまだ無名だからか。
グリーンにそのような人材はいなく、その仕事をすべて一人でこなしているのが実情であり。
また、無名だからこそ侮られ、挑戦者が絶えない状況に甘んじている。
だからブルーは、いつグリーンが過労で倒れるか、実は不安なのである。
(少しは頼ってくれてもいいのに)
グリーンの性格は些少なりとも分かっているので、口には出さないが。
そういう理由でブルーは、グリーンのつくため息の数に必要以上に敏感になっていて、このところ、トキワジムに入りびたりになっている。
(また、シルバーに怒られちゃうわね……)
手紙やメールのやり取りは続いているが、めっきり会うことの少なくなった弟の顔が、ちらり、とブルーの脳裏を過ぎる。
初対面の状況自体が悪かったこともあるが、シルバーはグリーンを嫌っている。
もちろんそれは、姉想いの性格のなす部分が大半を占めるのだが。
どちらかというと性質的に似ているグリーンに、同属嫌悪的な苛立ちを感じるのだろう。
だからブルーがグリーンに接触すること自体、嫌なのだ。
(それでも、引き寄せられちゃうんだもの。仕方がないわよね)
ブルーの答えは、どうしてもそこに行き着いてしまう。
珍しく挑戦者が現われないこともあり、沈黙が部屋を支配していて、グリーンの紙を手繰る音が時折聞こえるだけで。
二人の吐息さえ、互いの耳に届きそうだった。
「グリーンっ」
その事実に、とたんに二人っきりの状況を意識してしまったブルーの呼び声に、グリーンは書類を見ていた目線を彼女へ移す。
「そろそろ休憩にしない? 新しいお茶用のハーブ、手に入れたの」
「……この書類の決裁が終わったら、でいいなら」
「ん。じゃあ、用意するね」
立ち上がり、ブルーは給湯室へ入る。
ポシェットから手のひら大のペーパーバッグを取り出し、中に入っているローズヒップを皿の上に空けた。
赤い実が白い皿の上で、存在を誇張する。
それをスプーンの背でつぶし、種を取り除きながら、
(やっぱり、この赤の色、お茶に欲しいわね)
せっかく綺麗な色なんだし。
そう思い、以前持ってきたハイビスカスと合わせ、ブレンドティーにすることにした。
(ビタミンの爆弾といわれるローズヒップと、疲労回復効果のあるハイビスカスなら、今のグリーンにちょうどいいし)
仕事で疲れてるみたいだからね、と小さななべを出しながら思う。
普通のお茶ならガラスのポットに入れ、抽出するのだが。
ハイビスカスもローズヒップも風味が出やすいものではないので、細かく砕いてなべに掛け、煮出すのが一番適している。
「ふふ。何かいいわね、こーいうのも」
ゆったりと一人でくつろぐお茶の時間が一番、と思っていたけれど。
大好きな人のためにお茶を淹れ、二人で楽しむというのも嬉しいものだ。
「グリーン、気に入ってくれるといいんだけど」
美味しくなる秘密の言葉でも唱えておこうかしら、と考えながら、なべの中身をスプーンでぐるぐるかき混ぜた。
→続く