ポケスペ短編連作
□新前ジムリーダーの日々 2
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「グリーンっっっ!!」
「……またか?」
突然執務室に乱入してきた少年に、仕事に没頭していて外界から意識をシャットアウトしていたはずのグリーンは顔をあげた。
「うん! 来て」
「分かった」
言いながら立ち上がるグリーンの手には、モンスターボール。
「席を外す。悪いが、挑戦者が来たら待たせておいてくれ」
「適当にアタシが片しとくわよ」
「頼む」
ブルーの申し出に是の言葉を投げ、グリーンの手を引かんばかりの少年とともに立ち去ってしまう。
嵐のように巻き起こり、消えた光景に。
ブルーを除いた全員の意識がクギヅケになって、そこで、彼らはひとつの過ちを犯した。
「何か飲み物入れてくるわ」
周囲の疑問をそ知らぬふりで、ブルーは給湯室へ向かう。
その声に、はっ、としてイエローとクリスタルが後に続こうとするが、目線で制して一人、給湯室に入ったブルーに、
「なあ」
声を掛けたのは、やはりこの人。
「なぁに? レッド?」
「今の、何なんだ?」
「今のって、グリーン?」
ブルーの訊き返しに、レッドが彼女から見えもしないのに、こくり、と頷いて返事にしたのは、微かなグリーンの焦りに気づき動揺していたからだ。
「トキワの森の生態系が、また崩れているの、レッドは知っているでしょう?」
給湯室から洩れ聞こえる声に、イエローの息をのむ気配が起こる。
「でね。たまに、トチ狂ったポケモンが街に突進してくるの」
「それを撃退するためにグリーンさんが……っすか?」
「ん〜〜……というより、保護するため、かな。トキワの人たち以外に見つかって噂にでもなったら、そのコたち処分されかねないしね。だから捕まえて、オーキド博士のトコに連れて行ってるみたい」
アタシも詳しくは知らないんだけどね、と。
ゴールドの問いに答える声と、からから、と氷の涼やかな音が重なった。
「入ったわ。悪いけど、取りに来てくれないかしら?」
ブルーの声に、女性陣――イエロー、クリスタル、サファイアが給湯室へ入って行き。
ついで、四人が両手に一つずつグラスを持ち、戻ってくる。
「綺麗ですね。ブルーさん、これ何ですか?」
サファイアからグラスを受け取り、重苦しい空気を変えるようにグラスの中を指差してルビーは訊く。
炭酸のしゅわりしゅわりと弾ける泡に、ゆらゆらと揺れる氷。
ルビーの持つのは薄紫の氷、サファイアの持つのはピンクの氷で、グラスをそれぞれの色に染め上げている。
「これはね、マロウティーを凍らせたものをソーダに浮かべたのよ。ただのソーダだと、そっけないじゃない?」
そんなルビーの企みに乗って、茶目っ気たっぷりにブルーは答えて見せる。
ちなみにマロウティーはハーブティーの一種で、普通に淹れると青紫色のティーだが、そこにレモン汁を注ぐと瞬く間にピンク色に変わる特色がある。
「綺麗ですね〜」
うっとりと自分のグラスを覗き込み、黄色の目をピンクに染めるイエロー。
「ええ、本当に」
同意してみせるクリスタルの手の中で、薄紫色のグラスがきらめく。
「オレ、ピンクかよぉ」
「嫌ならクリスから奪い取れ」
ぶつくさ言うゴールドと冷ややかに返すシルバーは、おんなじ色のグラスを手にしている。
「まあまあまあ。そー言わずに、飲もうぜ!」
「そうよ。早く飲まないと、氷が溶けちゃうわ」
そう言って掲げたレッドとブルーのグラスは、窓から洩れ込む光に、きらり、と薄紫色の輝きを放った。