ポケスペ短編連作

□新前ジムリーダーの日々 6
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 「シルバー。考えても見なさいよ」
 「何を?」
 「スイがいるのに、アタシに手を出すほどグリーンは間抜けじゃないわ」
 「分かんないじゃないか、そんなこと! だいたい、ほとんど見も知らない女の子と住むより、恋人と住む事態のが危険に決まってる!」
 「恋人同士だもの。別に構わないじゃない」
 「構う! 絶対、絶対、絶対、絶対!! オレが許さない!!」
 二人の引かない主張に見守る面々が慄(おのの)く中、
 「……おい」
 ウルサイ外野を意識から遮断して、黙々と仕事をしていたグリーンは、さすがにここまで言われて、黙っている訳にはいかなかったらしい。
 「お前ら。俺を何だと思っている」
 底冷えする声は、体感温度を確実に五度は下げた。
 オンナと二人きりになったら、ここぞとばかりに襲い掛かるオオカミみたいに言われ、まるで自分の理性が本能に負けている、という扱いをされれば、グリーンでなくても怒りたくなって当然だ。
 ヒシヒシと、グリーンの怒りが肌身に伝わってきて。
 周囲は洩れなくひやりとしたものを感じて、背筋をピン、と伸ばしてしまったのだが。
 すっかり頭に血を上らせたブルーとシルバーには効かなかったようで、
 「アタシの彼氏に決まってるわ!」
 「認めたくないけどな!」
 切り返すように、怒鳴られて。
 そのまま口論に戻っていく姉弟の姿に、グリーンは、言うだけ時間の無駄、と見切りをつけたようで、ため息をつくと仕事へ意識を向けた。
 心理的に置いてゆかれた格好になった他の面々は、
 (グリーン! これ、どーにかしろっっっ)
 (た、助けてっ……!!)
 ブルーとシルバーの激化する口論にさらされ、時々流れてくる同意を強要する視線や声から目を逸らしながら、おのおの心の中で叫んだ。
 そんなこんなで、結局。
 何度もループしては戻り、平行線をたどって結論は出ないと思われていた姉弟のケンカまがいなやり取りの結果は、というと。
 「大事な姉さんを、アイツのところへ行かせるのは嫌だ!」
 シルバーのシスコン真っ盛りな主張は、
 「だからって、グリーンとスイを二人っきりにはしておけないし、アタシの目の届かないところで他の女の子がグリーンの家に泊まるのも許せないわ!」
 というブルーの、グリーンの恋人としての主張とぶつかり。
 「だったら、レッドさんなりゴールドなりルビーなり泊まらせれば、それでいいじゃないか!」
 シルバーが出した提案は、
 「男ばっかじゃ、スイが可哀想じゃないの!」
 女の子であるスイを気遣うブルーの発言によって、ぐうの音も出ないまでにやっつけられて。
 「うっ……じゃあ、オレもアイツのトコへ泊まる!」
 苦渋の宣言であるそれは、シルバーにとって最大限の譲歩だった。
 しかし当然ながら、二人も押しかけてはグリーンに迷惑がかかる、という殊勝な考えは、この姉弟には存在しない。
 また。
 それを二人に指摘できる人間も、グリーンを除けば皆無で。
 グリーンが黙っている以上は決定したも同然、という風に、身の危険を回避するためにも解釈することにした一同だった。


→続く
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