☆庭球歌劇部屋A☆
□迷い猫
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BGMやお囃しで、必然的に大きくなる声。
「ねぇねぇ工さん!オレ喉渇いた!!」
「へ?」
「だから、喉渇いたの!!」
俺に聞こえるようにと、わざわざ近寄って耳元に囁く。
俺もやっと理解して、"ココで待ってるから買いに行きな"と手を離した。
でも、それがいけなかった…
まさか何分経っても戻ってこないなんて、思いもしなかったんだ。
塁斗とはぐれて1時間。
俺は焦って人混みを掻き分けて探した。
でも全然見つからなくて、鳴らした携帯も繋がらない。
「そっか…今日携帯忘れたって言ってたっけ」
少し乱暴にポケットへと携帯を戻して、俺は段差に上がる。
頭1つ分デカい身体をこれほどまでに感謝したことはない。
「塁斗〜!!」
当たり前だか返事はなくて、俺は不安になってきた。
塁斗は可愛いから。
しっかりしてるけど、寂しがり屋で甘えたがりだから。
そんな塁斗を一人にすることこそ、恐いことはない。
「…クソッ!」
片手に持った綿飴が、塁斗の笑顔を思い出させる。
俺はもう一度顔を上げて探し始めた。
この手を二度と、離しはしない…
そう誓って。