☆庭球歌劇部屋A☆
□有難う、暖かな笑顔を…
3ページ/8ページ
午後11時を過ぎたこの時間、住宅街に人の気配はない。
家の電気も消えかけている道を、街灯目指してトボトボと歩く。
さっき引っ掛かったことは何だったんだ?
そんなことを考えながら…
「…寒っ」
Tシャツに上着を一枚だけしか着ていないと、さすがに夜は冷える。
風邪で仕事を休むなんてしたくないのに、俺はいつも注意不足だ。
「っクシュ!」
あ、クシャミまで…
やっぱり今日は、何事も人事にしてしまうらしい。
俺は上着の前をしっかりと閉めて、早足で家へと向かった。
去年の誕生日、俺は何してた?
仕事だったのは確かだったけど、酷く楽しかった気がする。
『誕生日オメデト〜♪』
あ…
そっか。
去年は仕事仲間の皆が祝ってくれたんだ。
その中に、卓也もいた。
一つ思い出し笑いを零し、俺は家の鍵を取り出した。
楽しい思い出は、冷えた俺の身体を心から暖めてくれる。
「ただいま」
誰もいない部屋に掛ける帰宅の合図。
静かな空間に吸い込まれていく自分の声を聞きながら、電気も付けずにベットへと倒れ込んだ。
何の理由もないが、今日は少しでも早く、眠ってしまいたかった。