☆庭球部屋A☆
□データはナシ!
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歳月が経つにつれ、俺たちは少しずつ距離を近づけていった。
その時間はとてもゆっくりと、穏やかに過ぎていった。
不二に言われたことがある。
『乾らしくないね』
って。
確かに俺なら、純粋な海堂を丸め込むなんて簡単だろう。
でも無理強いはしたくなかったんだ。
海堂の本当の気持ちを知りたかった。
それに…
それに、海堂に俺のデータは通じない。
どんなに計画を立てたって、たった一言で崩してしまうんだ。
『乾先輩』
付き合ってすぐの頃、どれだけ海堂が好きか語っていた俺に、海堂は優しい声で言ってくれた。
『俺の方が、ずっと前から先輩を見てた。俺の方が、ずっとずっと先輩が好きだ』
初めて、俺にだけの笑顔を見せた時だった。
距離が近づいたからといって、俺たちの関係が急激に変化したことはない。
少し触れている時間が増えて、少し目線が近づいただけだ。
「貞治、飯できたぞ」
そして少し、海堂が可愛くなった。
ずっとずっと、優しくなった。
「ん、今行く」
「仕事より先に飯だぞ?」
誘うような良い匂いを追うように、俺は静かに身体をほぐした。