☆庭球部屋B☆
□笑顔の理由
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さっきみたいに三回もサーブを外すと、必ず怒鳴ってくれる彼がいた。
練習の時は容赦ない。
だけど、試合の時はなぜか優しい。
気にすんなって、軽く肩を叩いてくれる。
それだけで落ち着いて、俺は俺らしいプレイが出来るんだ。
「…こんな顔してちゃ、また怒鳴られちゃうな…」
寂しいと言わない。
二人で決めた約束だ。
俺は宍戸さんのこと大好きだし、何を犠牲にしてでも傍にいたい。
そんな俺の考えを見越して、宍戸さんは言った。
『いいか、長太郎。毎日連絡取ってやる。お前がしたいなら、毎日一緒に帰ってやる』
中学校生活最後の自主練をしながら、宍戸さんは夕日を見上げて笑った。
『だから寂しいって言うな。会いたきゃ会ってやる。だから、寂しいだけは言うな』
宍戸さんの気持ち、すぐに分かった。
俺の悲しむ顔は好きじゃないって、前に言われたから。
寂しいって落ち込む前に、会いたいって我儘言えってこと。
俺がベッタリ甘えるのを嫌がっていた宍戸さんからの言葉に、少しだけ驚いた。
それでも、遠回しに会いたいと言ってくれていることに対して、俺は自然と笑っていた。