短いおはなし

□捕え、られる。囚われ、る。
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「好きです」



突然、耳に飛び込んだ言葉に身体が強ばる。心臓は嫌な音を立てて、咄嗟に俺は建物の陰に隠れた。





――最悪だ。





タバコを注意する教師たちが煩わしくて、逃れる為に校舎裏まで来たのに。
まさか告白の現場に立ち合ってしまうとは、思ってもなかった。




それも。それも今一番気になって堪らない奴の…




先程女生徒から告白された山本は、バカみたいに困った顔をしていた。
あー、と無意味に声を出して困ったように頭を掻く。
そして言った。

「悪ぃんだけどさ。今は野球以外、考えらんねーんだ」


だからゴメン。
そう言いながら山本は頭を下げた。


これは山本が告白を受ける度に、毎回返す言葉。
山本が今回も変わらず断ったことに、ホッと息を吐く。





女はズルい。




好きだと言って、山本に気持ちを伝えられる。
しかもそれが、決して不自然なカタチじゃないのだから。

女が男を好きになり、男が女を好きになるのはアタリマエ、で。男からの告白と違って少なくとも、告白しただけでキモチワルイとは思われないはずだ。


女だったら良かったのに、とは思わないけれど、それでも女だったらこんな思いをせずに済んだのだろうかと。
そう思うだけで苦しくて。

何度諦めようと思うのに、その度に思いの深さを自覚する。


山本から、抜け出せない。


行き場のない思いは脹らみ続け、出口を探している。
それは身体中を満たし、このままではパンクしてしまいそうだった。







「あの…」

俯いていた女が顔を上げ、懇願するように眉を寄せた。


「一度でいいから、抱き締めてもらえませんか?」






――え…?






予想外の言葉に、頭が真っ白になる。

ドクン、と心臓が不規則な音を立てた。


「そういう事は…」

躊躇う山本に女生徒はなおも続ける。

「一度でいいんです!一度だけ…思い出にしたいんです…」

そう言ってぽろぽろと涙を零す女は、誰から見ても可愛らしい。



でも、


俺の胸を強く締め付け、鈍い痛みを与えているのも、紛れもない彼女なのだ。







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