短いおはなし
□捕え、られる。囚われ、る。
2ページ/3ページ
「好きです」
突然、耳に飛び込んだ言葉に身体が強ばる。心臓は嫌な音を立てて、咄嗟に俺は建物の陰に隠れた。
――最悪だ。
タバコを注意する教師たちが煩わしくて、逃れる為に校舎裏まで来たのに。
まさか告白の現場に立ち合ってしまうとは、思ってもなかった。
それも。それも今一番気になって堪らない奴の…
先程女生徒から告白された山本は、バカみたいに困った顔をしていた。
あー、と無意味に声を出して困ったように頭を掻く。
そして言った。
「悪ぃんだけどさ。今は野球以外、考えらんねーんだ」
だからゴメン。
そう言いながら山本は頭を下げた。
これは山本が告白を受ける度に、毎回返す言葉。
山本が今回も変わらず断ったことに、ホッと息を吐く。
女はズルい。
好きだと言って、山本に気持ちを伝えられる。
しかもそれが、決して不自然なカタチじゃないのだから。
女が男を好きになり、男が女を好きになるのはアタリマエ、で。男からの告白と違って少なくとも、告白しただけでキモチワルイとは思われないはずだ。
女だったら良かったのに、とは思わないけれど、それでも女だったらこんな思いをせずに済んだのだろうかと。
そう思うだけで苦しくて。
何度諦めようと思うのに、その度に思いの深さを自覚する。
山本から、抜け出せない。
行き場のない思いは脹らみ続け、出口を探している。
それは身体中を満たし、このままではパンクしてしまいそうだった。
「あの…」
俯いていた女が顔を上げ、懇願するように眉を寄せた。
「一度でいいから、抱き締めてもらえませんか?」
――え…?
予想外の言葉に、頭が真っ白になる。
ドクン、と心臓が不規則な音を立てた。
「そういう事は…」
躊躇う山本に女生徒はなおも続ける。
「一度でいいんです!一度だけ…思い出にしたいんです…」
そう言ってぽろぽろと涙を零す女は、誰から見ても可愛らしい。
でも、
俺の胸を強く締め付け、鈍い痛みを与えているのも、紛れもない彼女なのだ。