短いおはなし

□刄を隠すな牙を向けろ
1ページ/6ページ


冷静沈着で仕事の出来る獄寺を慕う部下は多い。その卓越された頭脳と的確な指示ですぐに秘書課のトップに君臨した獄寺は、常に注目の的だった。仕事に対するストイックなまでの態度と端麗な容姿に憧れを抱くのも無理はない。

しかし憧れに恋愛感情が伴うと、また別だ。


「好きなんです…獄寺さん!」


その現場に遭遇したのは、本当に偶然だった。でなければどうして、自分の恋人の告白現場を好き好んで見なければならない?反射的に身を隠したのは決して後ろめたさからではない。

偶然にしろ必然にしろ、とにかく山本は、見てしまった。


頬を赤く染め懸命に己の思いを語る、幼さが残る男の顔も、
やけに冷静で、やけに真面目な獄寺の顔も。


もちろん獄寺はキッパリと断ったが、そんなことは関係ない。
山本の胸をよぎったのは、名前にすることの出来ない不確かな感情と、どうしようもない独占欲だった――






刄を隠すな

  牙を向けろ








次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ