短いおはなし

□刄を隠すな牙を向けろ
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今日は立て続けに珍しいことが起こるものだと獄寺は思う。
今朝部下の1人から不意討ちの告白を受けたと思ったら、今度は山本だ。
営業課に籍を置く山本がここ秘書課に来るのはごく稀で、秘書課の連中も社長の沢田までも喜んで話に花を咲かせていたのだけれど。

いくらなんでも留まる時間が、度を過ぎている。
いつまで経っても帰ろうとしない。

その場の空気を読むことに長けた山本が、秘書課に漂う動揺を感じ取らないのはごく珍しいことだが、獄寺が何度キレて帰れと言っても今日は暇だからと頑なに帰らない。

仕舞には獄寺に向けて
「ちょっと話があるんだけど、抜け出せないか?」
と言いだす始末だ。

そう言う山本の顔は笑っているけれど、その目は違う。怖くなるくらいに不機嫌だ。周囲は気付かないかもしれないが、獄寺には山本が隠し持つギラギラと輝く瞳が垣間見える。
正直言って機嫌の悪い山本と二人きりにはなりたくなかったが、
山本がいたのでは仕事にならないと泣き付くような部下からの視線と、その雰囲気を感じとった沢田の一言で獄寺は重い腰を上げることとなった。

「山本もそう言ってるし、獄寺くん、休憩してきなよ。今日は来客もないしさっき定例会議も終わったばかりだしさ。獄寺くんだって特に急を要する仕事もないよね?獄寺くんには最近忙しく働いてもらってたし、そのご褒美だと思って、ね?」

言い訳も出来ない程言葉を羅列されてしまえば仕方ない。のろのろとした手付きで眼鏡を外すと、目頭を押さえ溜め息を吐いた。

「…わかりました」


俺に逃げ道はないってことか?





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