短いおはなし

□エイプリルフールの悲劇
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「獄寺ぁ。俺、昨日ツチノコを捕まえたんだよね」



昼休み、いきなり山本が獄寺くんにそんなことを言い出した。

俺は母さんの作ってくれた弁当を食べるのを止め、思わず山本を凝視する。


…前からそんな気はしてたけど、とうとう頭がイカレちゃったのか?


俺はそんなことを考えていたけど、どうやら違うらしい。
一体何事かと見ると、山本が目配せするようにウィンクした。



そっか…今日はエイプリルフールだっけ。



この年になって今更誰も騒ぎ立てるようなことしないから、すっかり忘れてた。



…それにしても。


獄寺くんに嘘を付こうとするなんて…
山本、お前どんだけチャレンジャーなんだ。

俺なら絶対無理。
そんな恐ろしいこと御免被りたい。

それに獄寺くんってそういうイベントごと、好きじゃなさそうだし。



獄寺くんが何時「ふざけたこと言うな!」って怒り出すか、ハラハラして隣を見ると、



獄寺くんはキラキラした目で山本を見ていた。



「それホントか?!」



――ああ、そうか。


この子、頭弱いんだった。


「ホントだぜ!あのツチノコだぞ」

「すっげぇ!!」

獄寺くんはエイプリルフールだってことも忘れて山本の嘘に目を輝かせてる。
普段は見下したように山本を見ているのに、今じゃまるで尊敬のまなざしだ。


獄寺くんって、頭は良いのにどっか抜けてるよね。
ツチノコなんて、あの山本が見付けられるはずないじゃないか。(←酷い言い方


興奮しているからか、ほんのり赤く頬を蒸気させる獄寺くんは贔屓目なしに可愛らしい。
そんな獄寺くんに山本はごくりと唾を飲んだ。


ふと、何か思い付いた顔をして山本はニヤニヤいやらしい笑みを浮かべ出す。



……あ、なんか嫌な予感。



「ごくでらぁ、そんなにツチノコが見たいのか?」

「当ったり前だろ!なんたって俺の遭遇したい生物ベスト8だからな!」

熱弁する獄寺くんに、山本のニヤニヤ笑いはますます酷くなる。

「そうかそうか。」

嬉しそうに頷く山本は、その後とんでもないことを言い出した。


「“俺の”ツチノコがそんなに見たいのか〜」



………


………う、


うわあぁぁ〜……



ちょっ、ドン引きだよ山本!

俺の…俺のツチノコ、って……


つーかお前かつては爽やか野球少年だったはずだろ。
いつから道を間違えた?


「なぁなぁ!ツチノコって大きいのか?」

だから君も普通に質問するな!

「ん?他のヤツのに比べれば大きいと思うぞ」

「!!他のヤツも飼ってんのかよ?!」

「ああ、男ならみんな持ってるぜっ」

「ええっ?!じゅ、十代目も持ってるんですか?」

「えっ!?……あ、うん?」

た、頼むから俺に振らないでよ…!


俺が白けた顔をしてるのをよそに、
山本と獄寺くんのおバカな話は続いていく。


「それになー、可愛がって優しく撫でてやるとますます大きくなるんだぜ」

「ホントか?!」

「おう!しかも育てていくと、お口からミルクも出すんだぜ」

「すげー!!」

獄寺くんは騙されているとも知らずに感心したように頷く。

てかミルクって…何のミルクだこのヤロウ。


「なんなら今日うちに来いよ。俺の家に来れば、いくらでも触らせてやるのな」

「行く行く!山本、お前って実はイイ奴だったんだなっ!
十代目っ、よかったら十代目も行きませんか?」


だから俺に振らないでってば。

山本は満面の笑顔だけど、背後から出る黒いオーラが「来るな」って語ってる。


「悪いけど…俺は予定があるから…」


獄寺くんゴメン…
俺には山本の暴走を止められないよ。


「そうですか…」

俺が来ないと聞いてシュンとするけど、ツチノコに会えるのがそんなに嬉しいのかすぐに笑顔になる。


「楽しみだなー!」

「そうなのなー」

ニコニコと嬉しそうに笑う獄寺くんと、不穏な笑みを浮かべる山本。

そして隣には、げっそりとした俺の顔。


これ以上お弁当を食べる気にもならなくて、俺は容器ごと窓から外に投げ付けた。





エイプリルフールの
悲 劇

(お巡りさーん!変質者がここにいます!)












す、すみませ!
石は投げないで下さいぃ!

 

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