短いおはなし

□熱情
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「…んっ…ふぅっ…」




山本の熱い舌が、口内を犯していく。






それは毒だ。

俺を貶める甘美な罠。


脳をとろけさす山本の熱から逃れようとしても、山本は決して許してくれない。
口内を思うがままに蹂躙する舌が、俺の舌を絡め取り、吸い上げ、翻弄する。

奪い尽くされそうな口付けにただただ陶酔する身体。
身体の隅々を満たす快感に、指先が痺れ、息が苦しい。





怖くなるくらいの、情欲。





熱に浮かされた頭が、さらなる熱を求める。

もっと、何も考えられなくなるまで山本で満たして欲しい。
そう思うのに。


「……っァ……、」


山本は、俺が望むものを何もくれない。






余韻だけを残して離れていく熱。

縋るように目の前の制服を掴んだ指は、笑みを浮かべた山本によって呆気なく外されてしまった。


「今日はここまで、な?」


そう言って宥めるように髪を撫でられてしまえば、もうどうすることも出来ない。
中途半端に高められた熱を早くどうにかして欲しいと思うのに。




自分だけ……

自分だけ何食わぬ顔で、笑って知らないふりをするなんて、ズルい。
さっきまであれだけ情熱的に俺を求めていたくせに、煽るだけ煽って知らないふりをするなんて。




「ツナも待ってるし、戻ろ?」


そう言って優しく手を引くコイツは、なんて酷い男なんだろう。

十代目の名前を出されたら、俺に抵抗なんて出来ないこと。
全部知った上でそれを言ってくるのだから。


「――わかってる…」


わかってる。
けれど言葉は虚しく、熱に浮かされた身体が拒絶する。








――ああ早く、
責任取ってこの身体をどうにかしてくれ。








胸に秘めた思いは言葉にならず、代わりに熱い吐息が零れた。







熱情
(このまま突き刺して突き上げてドロドロにして)




 

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