短いおはなし

□熱情3
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――きっかけは、本当に大したことじゃない。


いつものように俺のうちに泊まりにきた山本が、いつものように俺を押し倒してきて。
まぁ俺もそんな気分だったし、しょうがねぇ付き合ってやるかと山本の首に手を回したのもいつものことだった。




でも、“いつも通り”じゃなかったのは、その後。




山本から与えられる刺激は全て快感に変わり、それは目眩がするほどの愉悦となって俺を襲う。


それなのに、


山本の指と舌はいつものように俺の身体をトロトロに溶かすのに、決してイかせてくれない。

イきそうになる度に、戒めるようにキュッと肉棒を掴まれ、阻止される。
中途半端に高められては焦らされる身体。

イきたいのにイけない、地獄のような快感。

初めは焦らされていることに眉を寄せ、咎める力もあったのに。
今はただただ山本から繰り出される快感に浸るだけ。

「や、だぁ……」

いつも以上に執拗な愛撫に身を揺すってみても、山本の拘束は緩まなかった。
むしろ指の動きは激しくなる一方で。

くちゅくちゅと音を鳴らせながら、最奥を掻き回される。
好き勝手に弄ばれる羞恥と零れそうになる甘い声に唇を噛み締めていたけれど、
膣内を探る指が前立腺を捕えた時、痺れるような快感が身体を襲った。

「ひ…っ!ぃやぁぁ!やま、もとっ…そこはっ…!」

最も弱いところを弄られて、悲鳴のような声が出る。
いやだ、いやだと首を振る俺に山本はやらしい笑みを浮かべた。

「なんで?ここ、獄寺が一番好きな場所じゃん」

そう言ってぐりっと前立腺を抉られると、目の前が真っ白になる。

「っぁああ!!」

信じられない。
快感が過ぎて、苦しみに変わる程。

「はぁっ…あぁ!……も、やだぁ…」



イきたい…


イきたくて、たまらない。



思考が山本に支配されて、
それしか考えられなくなる。

朦朧とした意識の中、山本がそっと囁きかける。

「獄寺…どうして欲しい?言ってくれたら、望み通りにしてあげるよ?」

悪魔の囁きのような山本の言葉。

俺がこんなに苦しい思いをしてるのは、全部お前のせいなのに。
頭がふやけてしまいそうな快感が、俺の思考をおかしくする。


理性なんて、もはや飛んでいた。


「ゃまっ…山本ぉ!…早くっ、早くイかせてっ!!」

もう、もう、と首を振って目の前の首にしがみつくと、前触れもなく山本の熱い塊が俺を貫いた。

「ゃあぁぁあっ!!」

衝撃に反り返る身体。
待ち望んだ凄まじい快感に、視界が赤く染まった――





***





「……んっ、んぅ…」

情事後のけだるい空気の中。
腰を揺らめかすと、中を満たしていた山本の精液が太ももを伝う。

その感覚にゾクリと身体を震わすと、壁に寄りかかっていた山本が起き上がった。

「いっぱい注いだからな………処理なら俺がやるよ」

嬉々として伸びてきた手を、俺は振り払う。
心なしか、山本の声が甘い。

「へ、いきだ…自分で出来る」

「そうじゃなくて、俺がやりたいの」

強がっちゃって、可愛い獄寺。

そう言ってとろけそうな笑みを浮かべる山本に、俺はなんだかムッとした。

なんなんだお前は。
一人で勝手に幸せそうな顔しやがって。

さっきまで散々俺を苛ませていたくせに、そんなに焦らして苦しめんのが楽しかったのかよ。


どうせ、イケなくて四苦八苦してた俺を見て、お前は嘲笑ってたんだろ?

「いいから俺に構うな!」

「? もしかして何か怒ってる?………でもさ。獄寺、俺が欲しいって言ってくれたじゃん」

求めてきたのはそっちだと、
まるで優越に浸るような山本の言葉に、カッと頭に血が上る。

「それはっ!お前が!」

無理矢理言わせたくせに…!

「そうだけどさ。でも、獄寺が本当に言ってくれて嬉しかったのな。お前は俺のものだ〜って実感したっていうか」

そう言って心底嬉しそうな顔をする。
でれでれと顔を緩めながらそんなことを言う山本が
憎らしくて、でもそれ以上に気恥ずかしくて。

俺は感情のまま何も考えずに叫んでいた。

「…ふっ、ふざけんな!俺はなぁっ、お前なんかいらないんだよ!」

それが悪夢の始まりだとも、知らないまま。



声を荒げたせいでハァハァと肩で息をしていた俺は、
俺の言葉で俺たちを取り巻く空気が変わったことにようやく気付いた。


言ってしまってから、後悔する。

俺は、触れてはいけないスイッチを押してしまったみたいだ。




でも、もう遅い。




「………ふーん?」



だって、

何か企んだような、冷たい色をした山本の瞳が、俺を映し出していた。








熱情
(全ては後の祭りということで、)


 

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